7話 ネーブルオレンジと事情把握(前編)

最初こそ走っていたから気づかなかったものの、森から教会へと続く道にはオレンジの木が軒並んでいた。甘酸っぱい香りのする大きく鮮やかなオレンジの実と、ところどころ咲いている白い花が、なんだかこの仔竜を連想させる。

「なんかお前みたいだな」

“オイラ?”

「そー。その瞳が、あのオレンジとそっくり」

一際鮮やかなオレンジを指さすと、仔竜は一瞬キョトンとして、それから嬉しそうにえへへと笑った。うん、かわいい。

「ほんとに、仔竜ちゃんみたいですね……」

リーラちゃんが微笑んで仔竜を撫でてやると、仔竜も嬉しそうにキュルルと喉を鳴らす。そんな様子もまたかわいーな、と思って、ふとあることに気づいた。

「そーいえばお前さ、名前なんてーの?」

“なまえ?”

「いや、いつまでも仔竜とかお前とかじゃアレだろ?名前教えてくんない?」

そう言うと、仔竜は少し俯いた。

“……なまえ、わかんない”

「は?」

“だれかがつけてくれたけど、わすれちゃった。あのこのなまえも、オイラのなまえも”

しょぼん、とする仔竜を慰めるように撫でてやり、俺は後ろの歩く王女様たちの方へ顔を向けた。

「あのさ、王女さま……」

「ごめんなさい、『厄災その子』がなんと呼ばれていたかは知らないんです。その子を預かった時には、名前をきける状況じゃ、なくて……」

ペインドラグと呼んでいたのは、どうやらこいつの種族名らしかった。しかし困った、いつまでもお前呼ばわりしたくないし。

「な、俺が名前考えてもいいかな?おまえの仮の名前!」

“オイラの?”

「ダメかな?」

仔竜はブンブンと首を横に振った。

“ダメじゃない!”

「よかった、じゃあどうすっかな……」

まさにゲームで使い魔に名前を付ける気分だ。にしてもどうするか、ヴァイスとかって中二くさいのはなんとなく合わないし。

ふと、さっきのオレンジが目に止まった。

「……ネーブル。俺の世界にネーブルオレンジっていう種類のオレンジがあってさ。お前の目と同じ、キレイなオレンジ色してんだ」

どうかなと聞くと、仔竜……ネーブルは嬉しそうに何度もうなづいた。

“ねーぶる、ネーブル!オイラきにいったよ!オイラなまえ、ネーブル!”

「よかった……」

そうこうしているうちに、教会のすぐそばまで行くと、扉の前でエルマー神父が立って待っていた。

「お爺様!」

リーラちゃんが駆け寄ろうとし……あれ、神父様なんか白いオーラ出てね?


「さてリーラ、ウタくん。私の止める声も無視して炎の上がる森まで走っていった理由を教えてくれるね?」

「「……はい」」

一難去ってまた一難、恐怖のお説教タイムは始まったばかりだ。

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Uta〜厄災竜の救世主〜 八ツ刻 粗茶 @socha31

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