6話 まずはおうちに帰りましょう
凄まじい風を巻き起こしながら、帝国戦闘機は東の方へと飛んでいった。(日が沈んでいっているのとは真逆の方向へ飛んでいったんだから東だよな。東に日が沈むとかバカ〇ンじゃあるまいし。)
俺は戦闘機を呆然と眺めながら、憧れの人が言った言葉を頭の中で反芻していた。
『忘れんといてくださいね、ゴーリー帝国は、君らの敵やってこと』
「俺たちの、敵……舞鶴さんも?」
たしかヴァルタナストーリーは、みんなと協力して1つの巨悪と戦うオンラインアクションRPGで、ユーザーが敵側につくとか、そういうのはなかったはず……気がする。あれ、どうだったかな?
「如何せんこっちに来る前の記憶がないんだよなー……VIPユーザーは敵勢力入れるオプションとか?ね、リーラちゃんどう思……うぉっ!?」
ヒュンッ
ティーナと呼ばれた女の子の持つ短剣が俺の首スレスレで止められた。その目は、怒りで満ち溢れてる。
「ちょちょちょ、タンマ、タンマ!君とそこのお姫様?助けたじゃん!俺が一体何したってんだー!」
「……あいつと知り合いなワケ?」
あいつ?
「舞鶴さんのこと?いや、一方的に知ってるだけであの人は」
俺のことは知らないと思うよ。と言おうとした俺の言葉は遮られた。
「あいつが敵と見なしたヤツに情けかけるなんて1度もなかった……あんた何者?
「理不尽!!」
多分この人はだいぶ気がたってるのだと思う。そりゃそうか、よく見りゃお姫様もこの人も随分ボロボロというか……やつれてる。さっきの様子からも察するに、ここに来るまでこの人は戦いっぱなしだったんだろう。そこに現れた素性も知らない俺が、情けをかけることがない(らしい)舞鶴さんに『逃がしてやる』と言われ、あっさり軍を退けた。……逆に警戒する程にあっさりと。
俺がこの人の立場でも同じように警戒するかもな。
「いやだからってこれは無いわ!敵じゃない!敵じゃないから短剣おろせ!」
「うるさい!敵じゃないかはあたしが決める!」
女の子が激昂して首元にグッと短剣を押し付けーー
制止する声が響く。
「やめて!ティーナ」
お姫様だった。その声に女の子ーーティーナは一瞬ビクリとし、お姫様の方を向いた。
「ひ、姫様……」
「ティーナ、その方は『厄災の導き手』。それに、私たちを助けてくださったのは事実です。さ、剣を下ろして?」
優しい声に諭され、ティーナは不承不承に短剣を下ろした。ほっと息をつくと、お姫様が俺のもとに駆け寄ってくる。
「申し訳ございません、助けていただいたのにご無礼を……」
「いや、別に」
大丈夫と伝えながら、お姫様の顔をまじまじと見た。
(うわあ可愛い)
さすがお姫様というか、その顔は怖いほど整っていた。
髪はおとぎ話の姫君宜しく金糸に緩くウェーブがかかっていて、グレーがかった緑の瞳はキラキラしている。ぷっくりと膨らんだバラ色の唇は、前に見た洋画の美人女優を思い出した。
にしてもなんなんだろう、
俺はこの世界ではまだ鏡すら見ていなかったことに気づいて気が重くなった。
「元の世界と変わらぬモブ顔なんかな……」
“ウタ?”
キュウキュウと肩に乗せていた仔竜が心配そうに顔を見上げてきた。
「そうだ、こいつはなんで羽がもがれてんの?お姫様たちはなんでアイツらに追われてたんだ?」
「っ!それは……」
言いにくそうにするお姫様に、リーラちゃんが優しく声をかけた。
「あの、嫌じゃなければ私の家に来ませんか?教会なんですけど、王都と違って聖母ファルシュメルを絶対信仰してる訳では無いので、その、ルケードの方も、大丈夫だと……」
先日起きた王都での事件の詳細も、聞いていたのとは違うみたいですしとリーラちゃんが言うと、お姫様と短剣女は顔を見合わせ、その一瞬のち、リーラちゃんの提案に同意の意思を見せた。
「お言葉に甘えさせて貰ってもいいですか?昨日からティーナは私のために夜通し戦ってくれて、限界だったんです」
「分かりました、こっちです」
こうして俺たちは教会のへ戻ることとなったが……
黙って燃え上がる森の方へ行ったことをエルマー神父にたいへん心配され、1時間ほどお説教されることなど、その時の俺とリーラちゃんは知る由も無かった。
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