5話 憧れの君は俺の……敵?


仮面を着けたその男は、あたりを見回し、最後に俺をじっと見つめ、ため息をついた。

「はぁ……王女と『厄災』をみすみす逃し、郊外の村の森を焼いて迷惑かけて、挙句『厄災の導き手』を覚醒させてしもたわけですか。ようここまで被害拡大させましたねえ」

低く心地いい声色の流暢な京弁が、容赦なくモブおじさんを責め立てる。オブおじさんは突如現れた仮面の男に驚愕し、次第にその顔を青くさせていく。

それにしても、やはりその美しい京弁をどこかで聞いたことがあるような気がした。どこかでというか、つい最近。思い出そうにも、ゲームを始めて何故か異世界転移してからの内容が濃すぎて最近の記憶すら曖昧になっていやがる。


「も……申し訳ございません軍団長閣下。ですがこれはっ、不測の事態が立て続けに起きたためでっ!?」

「いやいや、ええんですけど、そーゆー言い訳。聞いててしょーもないわこいつてなるだけやし。それに……」

仮面の男が、剣を引き抜いた。

「責任として君の首切ってまえば、すこーしは陛下の溜飲も下がるんやないですかね?」

「な……!?」

ザシュッ。







「ほう、存外冷静やないですか、君」

男が何をしようとしたのか気づいた瞬間、とっさに後ろ3人に視覚を妨害する膜を張るように念じ、仔竜の目を隠した。後ろの様子から察するにギリギリセーフだったみたいだ。

目の前にはさっきまで生きてたモブおじさんが虚ろな目をして横たわっている。その体には、刺され大量失血した血飛沫の跡。こんなの、見せちゃいけない。リーラちゃんにも、王女様たちにも、こいつにも。

「『厄災ペインドラグ』にも見せんようにしたのは正しい判断や。ま、見たところでこっちに大した被害はないけど」

「……そこまでやる必要、あんの?」

男は俺の言葉に一瞬首を傾けたが、すぐ言いたいことを理解したらしい。死体を見下ろして、少し口を尖らせる。

「しゃーないやないですか、やったら怒りますよてゆうてること次々やって、言い訳しよとして。そういう人は上司への手土産にした方がよっぽど役に立つわ。それに」

男がこちらに顔を向け、仮面で隠れていない口に、弧を描いた。

「なんや面白そうですから、君らのこと、いっぺん見逃してあげよ思うたんですわ」

「……は?」

俺の反応を待たずして、男は口笛をピューと吹いた。瞬間、新たな兵士たちがあらわれ、モブおじさんの死体と俺がのした兵士たちを担ぎあげ、飛行船へと乗せてゆく。

「だから、見逃したってあげます。今回は。でも、次に会うたときは、忘れんといてくださいね……ゴーリー帝国は、君らの敵やってこと」

「閣下。準備整いました!」

「分かりました。じゃ、もう僕は行くわ」

「ちょ……おい」

待てよ。という言葉は口から発されることは無かった。

後ろにいた3人のうち、ティーナと呼ばれてた女の子が、盾呪文と妨害幕を抜け出し、乗り込もうとした男に向かって叫んだからだ。

「おいっ!待ちな!降りてこい、舞鶴!!」

「……ま、い、づる?」

そうだ。思い出した。てかなんで一瞬でも忘れたりしたんだ。

あの人は俺の……俺の

「今すぐ降りろ!あんたのむかつくその仮面、あたしが剥ぎ取ってやる!」

「はは、ティーナちゃん、せいぜい王女様守っとき。……また会おね、ウタくん」

そういい飛行船乗って飛びたったあの人の名は、舞鶴。


有名実況者の1人で、恐らくVIPユーザであり。



俺の憧れの、ゲーム実況者軍団『MASKめろん』の、メンバーだ。

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