第二十九話 まあ素敵! それはジューンブライドを迎えた時の約束だよ!
『……タイムリープ。またはゆとりを持ち、
あくまで脳内。この場にいながらも、イメージという名の
それに基づき、文章という形で伝えている。それが
この時だ!
わたしはふと、そう思った。
この日記帳を開いて、わたしをイメージして語ってくれている。
それはまた『ありがとう!』と、
その一言に尽きるの。かけがえのないあなたは、今そこにいる。
本当はね、もうすぐお家に着きそうな幼稚園の前が
……さっきとお話が重複すると思うけど、一日のお勉強の時間が終わり、旧校舎の三階にある『
……寂しかったの。
二年生の三学期、さとちゃんは遠く南へ転校しちゃった。
だから、(この時間旅行だけど)
ここは、まだ学校内だし、
もう少しだけ、寄り道していいかな?
とっても恥ずかしいけど、
まず見るものはね、
でも、よく見るとね、それが『
これを、わたしに? って思っているとね、「気に入っちゃった?」と、声をかける茜ちゃんとは微妙に違ったニコニコ顔の葵ちゃんが、「じゃあ、さっそく」と、わたしのブルーな半ズボンに両手をかけ、そのまま下しちゃって……って、ええっ?
――それはね、ほんの三時間くらい前のことだ。
窓から見えるお空は、これ以上に曇っていた。鉄筋コンクリートだからかな? その色もブルー。白色の中に冷たい
ふうふう……と、息苦しい。
ぽろぽろ……と。
教室は二階。わたしの席は、運動場が見える窓際。お腹の中を駆け回るほどの気持ち悪い温度。高所は大丈夫だけど、それが急に、強い光に覆われてっ!
―― Strong, too strong, the strongest!
その中にもまた、ブルーな翳りが見える。ほんの一瞬だ。ドンッ! とも、バンッとも表現不可の激しい音が炸裂した。……って、そんなに軽くないんだからっ!
声も出ないくらいに歯がガチガチで、両脚もガタガタ……。「ひくっ」と
「こりゃ近くで落ちたな」
「ああ、すごい雷だったな。……って、おい、あれ」
男の子が騒いでいるみたいなの。
「やだ、
と、隣の席の子だ。女の子なの。
騒音。連鎖。拡大……繰り返し。
「おいおい、まじかよ」
「幼稚園児みたい」
「こら君たち、ふざけないの。
「大丈夫かな? 顔が真っ青だよ……」
教室の、クラスのみんなが騒ぎ出した。
『北川』というのが、わたしの名字だ。
すると、黒板の前に立っている胸に『S』というマークが目立つ、赤ライン入りの青Tシャツ。それに合わせて同色のジャージ。そんな姿の背の高いお兄さんが、チョークを置いて、こちらに向かって歩いてくる。『
さとちゃんが一緒だった一年生と二年生の時は、ともに『
「起立!」
と、耳元? そばで大きな声。
「ひくっ!」
と、びっくりして立っちゃった。
「あ~あ、また出ちゃって……」
と、隣の席に座っている女の子の言った通りで、
今度は先生の声にびっくりして、もれちゃったみたいなの。もう自分の中では収拾のつかないものになってしまって、わけがわからなくなって、涙も止まらないまま半ズボンを濡らして、足元の大きな
「えっ、ひくっ……」
と、泣きじゃくっているわたしに、
「全部出たようだな」
と、普段から大き目の、尾崎先生の声が聞こえる。
やだ、怒られちゃう。……と、思っていたら、ポンッと優しく肩を叩かれ、
「よし! 胸を張って保健室に行ってこい」
と。顔を上げたら、『爽やか』という表現が『これほどまでに似合うのか』の笑顔。
えっ? と驚く気持ちと、
安心感が入り混じって、涙だけではなくて、鼻水まで出ちゃって、
「ごえんなしゃい……」
って、繰り返していたそうなの。
急で、突然で、去年からだった。……雷が鳴ると、いつもこうだ。
――それでね、
「あらあら、パンツも一緒に脱げちゃったね。でも大丈夫よ。もっと
と、まったく同じだ。
隣の席の子に連れられ保健室へ行った時の模様を、リアルに再現。
……下だけ、はだかんぼになっちゃった。
「大丈夫よ」
「お勉強中おもらししちゃう子って、
右から順番に葵ちゃんも、
茜ちゃんも、そう言って、ヨシヨシ&ナデナデしてくれた。
……あれ?
「何で知ってるの?」
「瑞希ちゃんの顔に、そう書いてあるよ」
と、ニコニコのまま葵ちゃんが言った。
その証拠に今、わたしの
「さあ、
「は~い瑞希ちゃん、
場を盛り上げる茜ちゃん。その中で葵ちゃんが、わたしの『二十四』の漢数字ではない数字入りの黄色の半袖シャツを
「あはっ、可愛い」
「全部はだかんぼになっちゃったね」
……とはいっても、爪先が赤色の白い上履きと、それに合わせたような白い靴下は身に着けたまま。葵ちゃんと茜ちゃんは
「茜、宏史の言った通りだね」
「ほんと、天使みたいだね」
「このまましておきたいね」
「うん。瑞希ちゃんなら、お洋服着なくてもOKね」
今日、ヒロ君はお休み。
風邪でお熱があるみたいなの。明日、お見舞いに行きたくて。……その前に、お兄ちゃんと一緒にお家に帰るの。でもでも、まだその前に、
「はだかんぼで帰るのやだ。お洋服着たいよお……」
ぎゅっと葵ちゃんの手を握って、潤んだ上目遣い。甘えた声もコラボする。
すると
その極みに「プッ」と、
「やだ、瑞希ちゃんったら」
「もう、
二人揃って「クスクス」ではなくて、もっと勢いよく「アハハハ」……だった。
その中にあっても、
「あんよあげてパンツ履こうね」
との一言を、忘れていなかった葵ちゃん。やっぱりお姉ちゃんだ。水玉模様。その上フリル付きで可愛かった。それに合わせて茜ちゃんも、
「次はいよいよ本命ね、白いドレスの登場よ」
「うん!」
そんな感じでね、優しく着せてくれるの。ママには「自分でしなさい!」って、言われちゃうけど、お風呂上りはね、いつもお兄ちゃんが、パジャマを着せてくれていたの。
「葵、リボンはこうなの?」
「あっ、違うよ、茜」
「あはっ、瑞希ちゃん笑ってる」
「うふふ、気に入ったみたいね」
同じようだけど、これでも二人。激似な声が、体のあっちこっちで飛び交っている。それに触りまくるから、我慢できない
――それでも、
「まあ素敵! ウェディングドレスみたい!」
想像してみて!
本当にそうなの。
お兄ちゃんだ!
真っ白だ。……ええっと、ええっとね、
「まっ、『魔法の天使・瑞希ちゃん』のニューバージョンだよっ」
ここは旧校舎。――この物語の第二十六話のタイトルにもあるように、この子が『旧校舎の魔法少女』で……つまりね、わたしの正体なの。
内緒だった。でも、さとちゃんは知っている。サターンはアニメの世界だけではなく現実の世界にも存在している。魔法少女もまた、現実の世界に存在しているのだ。
……とはいっても縦文字が大好き。『マジカルエンジェル』をね、縦文字にすると『魔法の天使』になって、わたしの名前が『瑞希』だから『瑞希ちゃん』なの。ねっ、漢字にするのがミソでしょ。とっても可愛いんだからね。……あっ、これって、
『ガ~ン! (第二十六話で……)さとちゃんが言ってた通りだ。
でも、いいんだもん!
今日もまた、世界の平和。縁する人たち全員の幸福を守る
だからね、
「ねっ、似合うでしょ?」
と、背後から葵ちゃんが、わたしの両肩に手を置いた。
「う~む、そうだな……」
と、お兄ちゃんは、じっとわたしを見つめる。
ちょっと怖い。怖いくらいに
「瑞希、とっても可愛いよ」
褒めてくれた。もう、嬉しくてたまらなかった。だからね、
同じ志! 茜ちゃんも葵ちゃんも、
「瑞希ちゃん、良かったね」
「えへへ……」
笑顔弾むこの場所。……もう秘密ではない秘密基地。『青空戦隊』という名前。その繋がりもある『旧校舎の魔法少女』の正体も。全部ひっくるめて笑顔に変えた。
――と、いうことがあって、我ら心の寄り道は終わった。
お隣にはお兄ちゃんがいて、目の前には
そう思わせるような一言、
「瑞希ちゃん、素敵なお洋服ね」
と、それだった。でもね、理想は『行くぞ、現在進行形!』なの。
『パパと一緒な日々が過ぎゆくのは、泣いちゃうくらい悲しいけど、これから先、未来へ進んでゆく方が、パパ喜んでくれるの。いっぱいいっぱい褒めてくれるの』
だから、わたしは、
「ねっ、可愛いでしょ?」
と、今日もスマイル! このお洋服には、笑顔が一番似合うから!
そう言い切れる自信! 茜ちゃんも葵ちゃんも口を揃えて「ワンピース」と言っていたけど、わたしには、やっぱり『純白のドレス』なの。セーラー服みたいな大きな襟はあるけれども、スカートの丈は長く
それがね、今のわたしの格好だよ。
それでね、千尋先生が訊くの。
「瑞希ちゃん、もしかして好きな男の子がいるの?」
「うん、いるよ」
と、これでも控え目。「もちろん」という言葉が頭に着くの。
……でもね、抑えきれなくて、
「瑞希ね、これから約束するの。大きくなったら結婚……」
「えっ?」という声が、まだ途中なのに
「瑞希、その男の子って
お兄ちゃんはユサユサと、わたしの右腕を持って揺すった。
ちょっと痛い。お兄ちゃんの顔も怖くて、泣きそうだけど、
「お、お兄ちゃんだよお!」
と、勇気を出して、声のトーンも絞らず、ちゃんと答えた。
……でもね、クスッと、
「何だ、そうだったのか」
「瑞希ちゃんにとって、お兄ちゃんは白馬の王子様だったのね」
お兄ちゃんがね、いつもの優しい顔? に戻ったと思ったら、クスッがクスクスになって、千尋先生まで一緒になって笑っちゃったの。
「何でなの? 瑞希は本気なんだよ!」
「あっ、ごめんごめん、瑞希には大切なことだったな」
わたしは雷を落っことしちゃった。
だからなの。ポンポンと優しく肩を、お兄ちゃんは叩いてくれた。
「……バージンロード」と、自分でもわかるくらい、声が低め。
「えっ?」
「瑞希が大きくなって結婚する時にね、一緒にバージンロード歩いてほしいの。……お兄ちゃんだけなんだよ、瑞希と一緒に歩けるの。だからね、約束なんだよ」
ウルッときた。
泣きそうになったから、小指を差し出した。
「ああ、瑞希との約束だもんな」
お兄ちゃんは、小指を絡めた。
「指切りげんまんね」
明るい声。そう千尋先生は言った。
――わたしとお兄ちゃん。呼吸ピッタリだ。
「指切りげんまん。嘘ついたら針千本の~ます。……指切った!」
遠い未来への約束!
約束があるから、明日も笑顔で会えるんだ。
旧校舎の魔法少女と玉手箱の日記帳 大創 淳 @jun-0824
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