うちのタマ知りませんか?

RAY

うちのタマ知りませんか?


 タマがいなくなった。


 いつもなら、日が暮れる頃、玄関に設けた専用出入口からひょっこり顔を覗かせるのにここ三日は帰って来ない。タマといっしょに暮らすようになって初めてのことで、不安な気持ちがどんどん大きくなっていく。


 黄褐色の肌に黒いシマ模様のある虎毛が愛らしく、どこか野性味が感じられる、黄金色こがねいろの瞳がかっこいいタマ。ぽっちゃりしているわりに身軽で、華麗な跳躍を繰り出して塀や木の上に飛び乗ると、余所よその家だろうと関係なく、我が物顔で颯爽さっそうと歩いていく。


 普段は温厚ではあるけれど、もともと気が強く、大きな犬が吠えてきても決して負けていない。前足を突っ張ってお腹の底から絞り出すような声をあげる。

 そんな様は目を引き、近所でも知らない人はいない。心ない者が誘拐に及んだとしてもすぐに足が付く。


 陽の当たる場所に寝そべって日向ぼっこをしたり、炬燵こたつで丸くなっていることもあるけれど、基本はアウトドア派で家の中でジッとしているのは好まない。今もどこかを彷徨さまよっている可能性が高い。


 普段は私が用意する餌を食べてはいるけれど、もともと狩人ハンターとしての資質を持ち合わせていることから、一匹ひとりでも生きていけるだろう。

 皮肉なことに、タマがいなくなったのはが原因ではないかと思っている。


★★


 四日前の夕方、タマがいつものように専用出入口から帰って来た。


 その日、熱を出した私は会社を休んで寝込んでいた。吐き気がひどく何も食べられない状態で、ずっと不快感を抱いていた。


 そんな中、タマが私の部屋へ入って来た。口に一匹のネズミを咥えて。

 私は、目を見開いて叫び声をあげながら布団から飛び出ると、大声でタマを罵倒した。気分が優れなかったことも手伝い、今まで口にしたことのないような、汚い言葉で怒鳴り散らした。

 タマは人間の言葉を百パーセント理解しているわけではない。しかし、私が全身から発した、強い嫌悪感をしっかりと感じ取っていたのだろう。彼はその場に獲物ねずみを置いて、悲しそうな様子ですごすごと部屋を後にした。


 しばらく荒い呼吸を繰り返しながら自分を落ち着かせていた私だったが、思わずハッとなった。タマの心情を察したから。


 寝たきりの状態でひたすら苦しんでいる私を目の当たりにしたタマは「自分が何とかしなければいけない」と思った。そして、栄養価の高い、動物性たんぱく質を確保して私に食べさせようとした。


 私は、気分が悪いのも忘れてパジャマのまま家を飛び出した。夕暮れが迫る中、大声でタマの名前を呼びながら近所中を走り回った。途中で会った人にタマを見なかったか尋ねてみたけれど、誰も姿を見た人はいなかった。


 昨日も今日も私はずっとタマを探した。電車を乗り継いで隣町まで足を伸ばしてみた。しかし、結果は同じだった。

 自分がやらかした、とんでもないことを深く後悔した。同時に、タマがどれほど私のことを大切に思っていてくれているのかを悟った。テーブルの上に飾られた、ツーショットの写真を見た瞬間、涙が溢れてきた。


 タマは愛玩のためのペットではない。私の大切な家族であり無二の親友だ。大切なものと言うのは、いつも失って初めてその価値に気づく。いや、まだ失ったわけではない。


 私はタマの写真を使ってチラシを作った。明日はこのチラシを配ろうと思っている。もし何の手がかりも得られなければ、配る範囲を広げる。タマが見つかるまでチラシを配り続けるつもりだ。


『うちのタマ知りませんか? 見かけた方は〇〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇までご連絡ください。見た目は怖そうですが、とても大人しいスマトラトラです』



 RAY

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