第10話 ふたたび藤堂真澄

 資料館でずらりと並ぶレプリカ土偶を眺める。

 土偶は儀式の中で割られる役目のものが多いと何かで聞いたなあと完全体の少ない展示物を見ながら思い出す。ヒトガタに作ってやな役割を引き受けてもらって割ってしまう。その信仰はどこまで本気のものだったのだろうと真澄は思いを馳せた。

 ちちんぷいぷい。

 痛いの痛いの飛んでけ。

 それから豊穣を祈るための像、というのも説としてあったはず。

 それから、と、ふとどう見れば妊婦に見えるのかわからない土偶の前で大学の語学クラスの友人が「植物」と言っていたのを思い出した。

 彼女曰くあれは植物の神なのだそうだ。


『そうなの? 初めて聞くかも』

『アンソロポモファイゼーションっていう言い方をしてる説があってね』

 つまり植物の擬神化ないし擬人化というか、植物を人の形の神にするとかなんとか彼女は言っていた。

『面白そうだから私もその説で論文を書きたいの』


 植物。

「どうかな、面白いでしょう」

 智枝さんが小さな声で囁く。(と言って入場者は二人だけだったのだが)

「並ぶと壮観ですね」と当たり障りのない感想を言い、真澄は一つを指差す。

「これがこの辺りででた土偶、本物なんですか?」

 それは、一つだけガラスケースに入った、真澄が見たことのない形のものだった。

「そう、これが不発弾処理の時に出土されて、ほら完全に欠けた所がないから綺麗でしょ」

 それは恐らくあの友人に言わせたら人型にも植物にも見える土偶で……まあつまり両手両足と頭がついて不思議な装飾の土偶だった。

「そう言えば土偶って、目の周り面白いデザインですよね、これって意味はあるんですか?」

「ああ、遮光式とかのこと?」

「そうあの感じ」

「土偶は謎が多くて……私は単に技術の問題だと思うんだけど」

 単に人型にしたかったのに上手くいかない、という意味だろうか。真澄は唯一の本物と目を合わせようとする。

 土偶のおそらく目玉がある部分を覗き込む。その土偶は右目だけ空洞だった。向こうの展示物が見える。

「この穴は欠けではないんですね?」

「ええ、元々そういうふうな……デザインみたいよ」

 ふうん。と真澄はガラスケースの中の隻眼のそれと対峙した。こういうのは好きだ。謎のままなのに展示というちょっと偉そうな位置に立つ古いもの。

 装飾は複雑な細かい、恐らくみごとなもの。なんだか腰?の辺りにつるぎのような小さな飾りも見えた。もしかしたら、妊婦や植物ではなく戦士の人形なのかもしれないなあと真澄は思う。

 隻眼の土偶は唇に見える部分がへの字でなんだか勇ましかった。

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あがさま きゅうご @Qgo

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