ハードボイルドな世界観は殺伐として乾ききったもの。だけど溺れるほどの激情がほとばしる一作です。
序盤、白昼堂々の強盗を終えた「彼女」を車で出迎える「わたし」の場面が見事です。
サマードレスを着た彼女の美しさと、建物のなかに満ちているはずの凄惨な暴力。
アメリカン・ニューシネマを想起させる鮮やかなコントラストは、これから綴られるふたりの物語を期待させるに十分。
店を襲い、車を盗み、人を撃つ。生きるために犯罪を続ける彼女たち。そこに罪悪感や焦燥感は感じられません。
むしろ、「閑静な田舎町を走り抜けてゆく。/どこまでも青く晴れ上がり、初夏の陽光がとても力強い。」このドライブの爽快感!
「わたし」が心酔している「彼女」は、生き延びるためのノウハウを知悉し、判断力や行動力にもすぐれています。
彼女たちはどうやって出会い、旅を続けているのか。逃亡の果てにどこへたどり着くのか。
女同士の強い愛情は、タイトル通り、夜明けの海岸線で臨界点に達します。
最後まで激情とたくらみに満ちた、タフで美しい作品。
曙光が照らすのはどんな彼女たちの姿なのか、ぜひ見届けてください。
(「すこしふしぎな海のお話」4選/文=ぽの)