サイバーセキュリティ小説コンテスト応募作を書いてみて
瓜生聖(noisy)
サイバーセキュリティ小説コンテスト応募作を書いてみて
先日、サイバーセキュリティ小説コンテスト応募作を完結させることができました。
目つきの悪い女が眼鏡をかけたら美少女だった件
https://kakuyomu.jp/works/1177354054886271542
執筆にあたって考えたことなどをちょっと書いてみたいと思います。
今回のサイバーセキュリティ小説コンテストでは、通常の新人賞に比べてスポンサーの意図が明確でした。
・ターゲット
10代~20代(主に男性)。セキュリティ業界の人間ではない
・目的
サイバーセキュリティに興味を持ち、そちらに進みたいと感じてもらうこと
・伝えたいこと・盛り込みたいこと
ホワイトハッカーのかっこよさ
チームワーク
セキュリティ従事者をほめてほしい
サイバー犯罪は人によって引き起こされるということ
サイバーセキュリティではなく普遍的なものをテーマにする
・ダメなこと
未熟な理解で描く間違った技術
上記ニーズから逸脱しないことを念頭において、プロットを考えました。でもこれがとても大変でした。
ホワイトハッカーの格好良さを描くには、その敵、ブラックハッカーを悪としなくてはなりません。でも、一般に思い描く格好良いハッカーってブラックハッカーなんですよね。守るよりも攻める方が派手で格好良いですし。特にサイバーセキュリティの場合だと守るということは現状維持であって、攻撃される前の状態になればいいわけで、どうにもカタルシスに欠けます。探偵のように事件を解く、という形にしましたが、実際、ここはあまり解決はできなかったなあ、と感じてます。
あと、敵役には「同情すらできない卑劣な奴」「やっていることはダメだけど同情する点もある」「やり方が違うだけで確固たる意思を持っているライバル」を配しました。サイバーセキュリティを推し進めることが目的のコンテストなので、「僕はブラックハッカーの方に進もう」という人が増えるのはよくありません。ライバルであってもブラックハッカーではない方がいいだろうと思い、ライバルをサイバー軍需産業の男にしました。
チームワークについてはメンバーそれぞれの得意分野を生かすことができる事件を最後に持ってきて、協力して解決することにしました。そのためにメンバーの顔見せ、必要に応じて能力の提示をする機会を作りました。実際にやってみせて「すげぇ」とか言わせるべきなんでしょうけど、所詮主人公が素人なので、ほとんど言葉で済ませてしまっています。あまり脇役にスポットが当たりすぎるのも、という思いもあったんですが、どちらが良かったのかはわかりません。
また、最近よく見られる中編連作の形にしたのには次の意図があります。
・いい評価をとりやすい気がする
実際のところどうなのかはわかりませんが、連作だとそのうちの一つがとてもよい出来、二つはそれなり、だとしても評価されそうだと思います。逆に一つがダメな出来、二つはよい出来でもいいような気がします。
これが長編だと一発勝負じゃないかな、と。
・三巻分のストーリーが描ける
ラノベを書き始めたころはなかなか単巻完結という形で書くことができませんでした。「これは三巻くらいかけて仲良くなる」みたいな設定ばかり考えていたことと、せっかく考えた世界観・設定を一巻だけで消費するのはもったいない、という気持ちがあったためです。
でも、中編連作にすると三つのストーリーを描くことができます。
・単純に書きやすい
今回規定の十万字だと、三連作にすると一作あたり三万五千字あればクリアできます。十万字だと私の技量では無理に引き延ばしたなあ、というところが散見されてしまいそう(良い言い方で「丁寧に描写」、悪い言い方で「テンポが悪い」)でした。でも、三万五千字はけっこう短くてテンポよく書いていかないとあっという間にオーバーしてしまいます。オーバーしても悪くはないんですが、引き延ばす必要がないのはいいですね。あと、一作目で出て二作目では出ない重要キャラクタが三作目で出てくるとちょっと嬉しい気持ちになります。
実際の執筆では以下を念頭に置いていました。
・技術に走りすぎない
セキュリティの専門家が選考する、ということもあって、特にセキュリティ従事者など業界の人間だと「よし、プロをうならせてやるぞ」という思いで書かれがちではないかと思います。でもそれはきっと「プロが読んで面白い小説」であって、ターゲットである「セキュリティにこれから興味を持つ人が読んで面白い小説」ではないんじゃないかな、と思いました。「この人絶対業界の人だわ」と思われるよりも「嘘は書いてないな」くらいの線を狙ったつもりです。
「日本人と思われるコロモガワ・マト」の元ネタはそれこそ、サイバーセキュリティを少しでもかじった人ならすぐにわかると思いますが、元ネタを知らなくても成立するように気をつけました。
・技術を説明しすぎない
それでも技術に触れなければならないところはあるので、「ここはわからなければきちんと読まなくてもいいんだよ」ということが伝わるよう、主人公を素人の高校生に設定し、「何言ってるかわからん(=わからなくても問題ない)」と代弁させました。
・最後はセキュリティ側が勝つ
もともと訴えたいことは明確なので、紆余曲折あるにせよ最後はそこに着地できるように考えました。結果、優等生的な話になることは(私の技量では)避けられないにしても、そちらを優先しました。
これで大賞獲れればかっこいいんですけど、果たしてどうなりますやら。
(2018/10/28追記)拙作は中間選考を通過することができました。応援してくださった方、読んでくださった方、ありがとうございました。
(2018/12/01追記)拙作は最終選考候補作6作品の中に残ることができました。応援してくださった方、読んでくださった方、ありがとうございました。
(2018/12/20追記)拙作は大賞受賞となりました。講評に「今回のコンテストの趣旨を理解した上でサイバーセキュリティに関わる事象やキーワードを正しく使っており、さらに深い世界観が書けるのではという期待感も込めて、大賞となりました」とありましたので、狙いは間違っていなかったようです。応援してくださった方、読んでくださった方、ありがとうございました。
サイバーセキュリティ小説コンテスト応募作を書いてみて 瓜生聖(noisy) @noisy_noisy
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