最終話 新たな冒険
最終話 新たな冒険
俺たちは開拓村ゲラからほど近いオリダ市へと移動し、数日滞在していた。
もともとナバーロ国に入る予定は無かったのだが、できれば崩壊したエスコーダ領を回避したかったのと、開拓村で人別標をもらった偶然が重なり進路を変えたのだ。
そして、このまま西に大きく迂回して南に向かう――はずだったのだが、ここで思わぬ足止めを食らった。
その足止めの原因とは隣で「ふがふが」と色気のないイビキをかいている。
そう、シェイラだ。
レーレと別れてから、シェイラは大泣きに泣いた。
その嘆きは大変なもので、まともに歩くこともできず、この町へは俺がおぶって来たほどだ。
そして、シェイラをなだめ慰めしてるうちに……なんというか、なるようになったのだ。
レーレと3人で旅をしていたバランスが崩れたのもあるだろう。
それに、互いに憎からず思う男女が2人で旅をすれば、そこは時間の問題でもあったと思う。
心配していたアレの具合も、ハイコボルドのぬるぬると、シェイラが『練習』してたお陰でクリアできた。1度成功してしまえばなんとでもなる。
いざ、こうなってみるとシェイラは可愛い女だ。
恥ずかしがりながら「じ、自分で練習したから大丈夫だ」とか言われたときはアレがコレもんに反応してヤバかった。
それ以来、俺たちは食事の時間も惜しんでイチャイチャしてるわけだ。今も互いに素っ裸、実に有意義な時間である。
「ふがっ!? う、ん……どうしたんだ、エステバン?」
じっと眺めているとシェイラが目覚めた。
無呼吸症候群が心配になるような目覚めである。
俺が「寝顔を見ていたのさ」と伝えると、彼女は大照れして布団を頭から被った。
これが可愛く思える辺り、俺もだいぶやられてるみたいだ。
……処女を嫁にもらうとパン屋が休むって本当だなあ。
これはアイマール王国の言葉だ。
処女を嫁にすると夢中になり、普段は休めないパン屋でさえ店を閉めてしまう、という意味である。
……ま、パン屋ならぬ冒険者が休業したって構わないさ。
俺はそっとシェイラの布団を引き剥がし、視線を合わせた。
そして顔を近づけ――
『きしし、よかったねシェイラ』
耳慣れた声が、どこかで聞こえた。
シェイラが大きく目を開き、勢いよく頭を起こす。
「あぶっ!」
「
顔が至近距離だったために、俺とシェイラの前歯同士がぶつかった。
地味だが痛い。
「痛てて。ごめん、でも――」
声のした方に顔を向けると、レーレがちょこんと窓際に座っていた。
シェイラが「レーレ!」と喜びの声を上げる。
「きしし、2人ともお楽しみだねー」
レーレは嬉しそうにしているが、彼女はリリパットの里で群れを率いることになったはずだ。
放り出してきたなら、さすがにマズイだろう。
「おいおい、ここにいていいのか?」
つい、心配になって声をかけてしまう。
すると、こちらの心配を察したか、レーレが「心配しないで」と片目をつぶった。
あざとい仕草だが、よく似合っている。
「考えてみたらボクはリリパットの里に帰りたかったワケじゃないんだよね。それに――」
レーレが部屋のすみに視線を向けると、無数の気配がうごめくのを感じた。
本能的な恐怖が背筋を刺激する。
「みんなもエステバンのことが好きになったから、ついて行きたいんだってさ」
レーレの言葉を合図にして、リリパットたちがベッドに群がってきた。
シェイラは嬉しそうな顔で「あはっ」とか喜んでるが……どうすんだこれ。
「また、また一緒に冒険できるなっ!」
「これからもよろしくね、2人とも」
だが、再会を喜ぶ彼女らを見れば、なにも言えなくなってしまう。
シェイラはレーレを手の平に乗せ、嬉し涙を流した。
レーレもニコニコと満面の笑みだ。
「ま、いいか」
俺もリリパットたちにたかられながら喜びの輪に加わった。
色々と問題はありそうだが、あとの心配はあとですればいい。
今は再会を喜ぶのだ。
「よし、それじゃナバーロ国を越えて魔族の国に向かうか」
「あはっ、大冒険だな!」
俺たちの言葉を聞いてリリパットたちも歓声をあげた。
俺は3等冒険者エステバン。
まだまだ冒険は続くようだ。
好色冒険エステバン 小倉ひろあき @ogura13
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