——戦(いくさ)は当初、戦乱と呼ぶほど大きなものではなかった。領境(あるいは国境)周辺をめぐる、よくある小競り合いだった。——
主人公ガストンの物語は負け戦から始まる。
ガストンは十七歳の樵(きこり)だ。村一番の力持ちで、信仰深く純朴。ただ、「気は優しくて力持ち」というような好漢ではない。直らない拗ね癖がある。(純朴さも人生ではしばしば枷となる)
そうこうして彼は否応なく兵士となる。最初はただ生きるために、家族のために ‟働き” 、やがて立場を得て、立場によって成長していく(その性根こそ変わらず、それゆえに苦労や損をしながら)。
実に人間臭い。そんな彼を読者はいつの間にか応援するのだろう。
人間臭いのはガストンだけではない。一面的ではない、癖のある人物たち(真っ直ぐな人物もいます)がとても良い。
そんな人物たちとのやりとりも、戦も、「単に勝った負けたではない」ところが素晴らしい。「人間万事塞翁が馬」と思わせる物語です。じわじわと熱を帯びる作品です。ぜひ読み進めて下さい。