愛だと思った

彼と別れてからの私は、何をしていたのだろうか。毎日違う男と飲み歩いた。雰囲気で察した下心をあえて聞いて寂しさを紛らわした。何も感じないセックスは経験人数を増やしただけでなんの価値もなかった。元々、行為に重きを置くような考えはない。好きだから出来ることという考えは元から存在していない。そもそも元は好きじゃなかった相手を好きになっただけで、何かが特別になるという基準はないから。


ただ残るのは、ひどい虚無感と寂しさ。それだけだった。


「怜はさー、それでいいの?」

「え?」


一番話が合う男友達、ひろとに言われた。それでいいのかという質問にすぐに答えが出なかった。いいのかどうかすらも見えないのだ。今の私には。焼き鳥が焦げる音がする。水滴が落ちるグラスの中のハイボールは、氷が溶け切って分離している。下の方でドロドロとアルコールが流れている。灰皿の吸い殻はもう6本になる所だった。アルコールも吸い殻も、私みたいだと思った。曖昧でグチャグチャ。使い切った、私の愛情。


「いろんな男に抱かれて、例え向こうが怜を好きになっても付き合うとかはないんだろ?」

「んー…考えたことないね。身体目的の人に求めることなんてないし」

「……そんなに元恋人がよかった?」

「…ううん、違うよ。そうじゃない」

「じゃあなに?」

「なんか分かんないだけ。好きになったり、夢中になったり。その人のために泣きそうになったりするのが」

「そっか」

「うん、そう」

「…飲むか」

「いいねぇ、すいませーん。梅酒ロックで」


ひろとに言ったことは、間違いではなかった。この世に溢れる恋も愛も有り余るくらいあるのに、私には全てが合わない気がした。必要としてないとも感じた。そして必要とされてない感じもした。誰に対して無になってしまった私は、「女」という性別を残しているだけになった。


いいなと思う男が現れても、結局は疎遠になった。何回も泊まって何回も交じりあって恋人のような時間を過ごしても、必要としていたのは身体だけだとお互いが悟っていた。それ以上でもそれ以外でもない。それが全てだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

それを恋とは呼べない @reim1218

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ