俺は死んでない!
桜庭みゆき
俺は死んではいない!
私が老舗の鍋物屋さんで働いていた時の話です。
そこは5階建てのビルになっており、全ての階で鍋やうどんの料理を食べられるようになっています。
4階と5階が、近くの会社員の人達等が宴会を出来る部屋になっています。そこの4階だけが、何故かお線香のような匂いがするのです。
私だけ?気のせいなのかと思い、先輩に聞いてみると「ここだけ線香臭いよね」という返事が。
そして他の先輩がこう言ったのです。
「昔のことなんだけど、この階でお酒飲みすぎて亡くなったお客様がいたらしいのよね。その人、自分が死んだ事わかってないみたいなの。勿論、お店の中で線香なんか焚かないわよ」
それは本当の話なのだろうか?それとも噂?
「その人、私に憑いて回ってるよ」
そう言ったのは、沖縄出身の知念さんでした。
「まさか」
その後、知念さんが夏休みの休暇を取り沖縄に帰りました。
4階で宴会があった後、みんなで片付けをしていたのですが、みんなバタバタと他の階へと行ってしまい、私ひとりになった瞬間があったのです。
ヒヤリ
首筋に、何か冷たいものがスッと走り抜けていく感触があったのです。
何いまの?
私も霊感は少しありますが、そんな体験は初めてでした。そしてその後、風もないのに5部屋ほどの宴会場の襖が、奥から順番に、ガタガタガタガタガタガタガタガタと揺れたのです。そして私の側の襖が私に倒れてきました。
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
昔の重たい襖なので、私は死んだと思いました。
なんとか無事でしたが、その後も、階段で何度も誰かに押されて落ちたりしました。
3階で接客をしていた時に、お酒が足りなくなり、先輩から4階からお酒を取りに行けと言われました。
怖くてたまりませんでしたが、逆らえません。
お酒を取り、急いで3階へと戻ろうとした時「ふふふふふふふふ」という声が聞こえたのです。
いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
私は階段を駆け下り「笑い声が聞こえたぁぁぁぁぁ!」と先輩達に訴えました。
「みゆきぃ、4階の電気消してきた?」
私が恐怖で震えているのに、班のリーダーの勅使河原さんは、何してるのという態度です。
「け、消したと思いますけど……」
リーダーの勅使河原さんは確認する為に4階へ行きました。
「みゆきぃ、電気消してなかったよ!」
怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
その後も、4階で宴会はしていないのにエレベーターが何度も4階で止まったままになっていたり、肩がやけに重く感じたり、不可解な事がありました。
「私がいないから、その間、みゆきにあの人が憑いてたね」
一週間の夏休みから戻ってきた知念さんが、私の顔を見るなり、そう言ったのです。
「なんで知念さんは沖縄にいたのにわかるんですか」
「わかるからね〜わたしは」
一ヶ月に一度、ビル内の大掃除を従業員の班ごとに順番で行うことになっているのです。
私の班の番が来た時にリーダーの勅使河原さんから「4階をみゆきひとりで掃除してもらうからね」と言われたのです。
それを聞いて、私は即、辞表を会社に提出しました。
4階にひとりなんて死ぬより怖いことです。
だけど幽霊よりリーダーの勅使河原さんの方が怖いかもしれません……。
完
俺は死んでない! 桜庭みゆき @Koorihime
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