幽霊の特殊性癖
悠聡
幽霊の特殊性癖
私の同僚に、よく金縛りにあう人がいます。
大体は布団の上で寝転がっているとき、突如耳鳴りがして身体全体に重い物がのしかかったように動かなくなるみたいです。
その間、枕元に変な影が立っていたり奇妙な声が聞こえてきたりと様々な怪現象が起こるそうです。ですが当の本人は慣れているのか「なあに、力づくで腕上げて身体動かせばもう見えなくなる」と笑っています。
しかし最近、その同僚でもぞっと震えあがる体験をしたそうで。
私たちはふたりとも20代の男で、インフラ関係の職業のため頻繁に職場に泊り込んでいます。その日も同僚は夜遅くまで仕事をした後、翌早朝勤務が再開するまで仮眠室で休憩することになりました。
仕事の疲れがたまっていたのでスマホのタイマーをセットして、さっさと布団をかぶってしまいます。ですが直後、ずんと胸の上から足先まで何かが倒れ込んできたような重みを感じました。
あ、またきた。同僚はよくある金縛りだろうと気にもせず、自然に収まるのを待つことにしました。むしろ霊の姿の見えたら睨み返したりするのが案外楽しいみたいです。
ですがその日は少し違いました。たしかに身体は重く動かないのですが、怪しい姿は何も見えません。
代わりにふーっ、ふーっとまるで耳元で息を吹きかけられているような音が頭の中で妙にはっきり、ガンガンとこだましているのです。
これは同僚にとっても初めての経験でした。今まで女の影が見えたり自分の名前を呼ばれたりといった怪現象は遭遇したものの、こんな気味の悪いことは無かったそうです。
あちこち目を移しても何も変わった様子はありません、いつもの仮眠室です。怪現象はこの息の音だけのようです。
変わったこともあるもんだな。そう思って目を閉じますが相変わらず耳元の息は収まらず、それどころか徐々に徐々に荒くなっていくのです。
さらにその後、息に混じって声も聞こえてきました。
「いいね、いいね……」
野太い男の声でした。この時、同僚は一瞬で鳥肌を立てました。
この野郎、俺はホモじゃねえ!
今すぐこの気色悪い霊を振り切ろうと、右腕に力を込めます。無理矢理動かせばこの怪現象ともおさらばですから。
ですがこの日はいつもより腕が重い。まるで片腕では上げられない重さのダンベルを握っているようで、どれだけ力んでもぷるぷると震えるばかりです。
「いいね、いいね……」
耳元の声がさらに大きくなり、息遣いも荒くなります。同僚は必死でした。
そしてとうとう腕が上がりました。肘から先を垂直に立てただけでしたが、その途端ずっと聞こえていた吐息もささやきも消え去りました。
しんと静まり返る仮眠室。同僚はせっかくの仮眠時間なのにムダに疲れたと、すぐさま眠りに就いたそうです。
後日、同僚は私に事の次第を話してくれました。
「うちの職場にはホモの霊がいる。お前も寝てる時は気を付けろよ」
「そうか……でもそういうのってよくあることじゃないの?」
「いや、あれは滅多に無いぞ」
「だって俺、昨日アパートで寝てる時金縛りにあって、まったく同じこと起こったぞ」
「あっ……」
同僚は絶句しました。
どうやら私は職場から霊をお持ち帰りしてしまったようです。
幽霊の特殊性癖 悠聡 @yuso0525
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