髪の伸びる人形の対処法

無月兄

第1話

 その人形は、俺の生まれる前からこの家にあったと言う。

 一見、それは何の変哲もない日本人形だった。髪が伸びること以外は。



 髪の伸びる日本人形。怪談としてはあまりにベタで面白味もない。気がついたら、いつの間にか人形の髪が長くなっていると言うだけのありきたりなもので、特に何か危害を加えられる分けでもない。

 だが、そんなものわが家にあっても平気かと言うと、もちろんそんなことはない。正直不気味でしかたがない。俺だけでなく、両親だって気持ちは同じだ。

 けれどもし粗末に扱ったりしたら呪われそうだし、捨てたりしたら、それこそどんな目に遭うかわからない。


 結局、その人形は家族に嫌われながらも、未だ我が家に鎮座したままだ。日々伸び続ける髪に、定期的に鋏を入れながら。







 だがそんな事態が一変する時が来た。ふとしたきっかけで友人達にこの話をしたところ、その中の一人が人形を見たいと言い出した。


「俺、そういう怪談とかには詳しいんだ。もしかしたらなんとかできるかもしれないぞ」

「マジか?」


 そいつは顔がよくて背も高い、所謂イケメンと言っていいやつだった。そんなやつが怪談に詳しいとは意外だったが、日頃人形を気味悪がっていた俺としては、すがるような思いでそいつに頼むことにした。



 後日、その友人は俺の家へとやって来た。


「これがその人形だ。少し前に一度髪を切ったから今は普通の長さだけど、数日したらまた延びてくる」

「なるほど」


 友人は話を聞くと、人形の前に立った。

 なにをする気だろう。そう思っていると、友人は何を思ったのか、人形に向かって手を伸ばした。いや、正確に言うと、人形の後ろにある壁に向かってドンと手を突き立てた。

 そして、激しい口調で言う。


「勝手に髪なんて伸ばしてんじゃねえよ!」


 呆気にとられる俺の前で、友人は空いているもう片方の手を人形の顎へと持っていき、それをクイッと持ち上げた。

 そしてさらに一言、今度は一転、甘い声で囁く。


「お前は、今くらいの長さが一番似可愛いんだよ」




 …………俺様男子?




 それからと言うもの、人形の髪が伸びることはなくなった。

 変わりに、なぜか時々化粧しているように見えることがあるのだが、それが何を意味しているのかはわからない。

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髪の伸びる人形の対処法 無月兄 @tukuyomimutuki

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