最終話 青春は味噌汁と共に

 いつもと変わらない風景。

 それは俺たちが昼食時に愛用している場所――屋上だ。

 そんな代わり映えのない風景で俺たちは今日も昼食をとる。


「そういや和太、あれからお前の『思春期症候群』はどうだ?」

「完全にとはいかないが、前より味噌汁の出る勢いはなくなったな」

「俺の推理が当たったな! 感謝しろよ~」


 そう言って蓮人は俺の弁当から唐揚げを掴み、ひょいっと口の中にほおりこむ。

 そんな蓮人に俺は対抗するように蓮人の弁当から卵焼きを抜き取り、そのまま口へと運ぶ。


「あっ、きたね」

「うるせー、お前が先だろ」


 時に真面目に話し合い、時にふざけあいながら昼食を食べるのが俺たちの中で日常化している。

 だがそんな日常も一つだけ変化があった。

 それは――


「和太、味噌汁くれ」

「あいよ」


 そう、それは味噌汁を飲むことだ。

 俺はあの『思春期症候群』に振り回された結果、こうして美味しい味噌汁を飲むのが日常化した。

 用意された二つの紙コップに味噌汁を注ぎ、そして――


「「乾杯」」


 俺はこの身に起きた『思春期症候群』を忘れないだろう。

 そしていつかこの話を青春の一ページとして笑い話になるように、心に刻んでいくだろう。


 だが今は――親友と二人、味噌汁を飲むことにしよう。


 思い出に刻むのはそのあとでも遅くはないよね?




                                    完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

手から味噌汁が出るようになった俺の日常 二魚 煙 @taisakun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ