火花を刹那散らせ

大福がちゃ丸。

最後の一手

 気が付いたらこの屋敷に居て、閉じ込められていた。

 俺の他に、男が一人女が三人、年齢も出身地も共通点は無かった、どうやってここに連れて来られたのか、何が目的でこの屋敷に連れてこられたのも謎だ。


 玄関も窓も開かず、窓ガラスはどんな事をしようが割れはしなかった。

 窓から見える景色は、闇よりも暗く星は渦巻き、底知れぬ漆黒の深淵を覗き込んでいるようだ。

 仲間となった一人の女性は、その景色を見て泣き叫び混乱したが、無理もないだろう。


 混乱した彼女が落ち着いてから、彼らと一緒に屋敷を調べる事にした。

 一部屋一部屋調べていく。


 子供が描いたであろう家族の絵と、名状しがたい歪で冒涜的で吐き気を催すような生き物が描いてある絵が飾ってある子供部屋、まだ生々しい血生臭い血まみれの部屋、黴臭く薄暗いやたらと本が並んでいる大きな図書室、豪奢なつくりの大きな机のあるこの屋敷の主人の部屋、そして大きなキッチン。


 色々な物も見つかった、ガラス瓶に入った黄金色に輝く液体、大きな銀色の鍵、この屋敷の主人の日記、そして何かわからない文字で書かれている皮張りの本。


 子供を不慮の事故で亡くした、精神を病んだ夫妻が住んでいたらしい。

 彼らは、愛しい子供を生き返らせようとした、何かを呼び出し生贄を捧げ願いを叶えてもらおうとした。

 だがそれは失敗し、その何かは、いまだに生贄を欲しているらしい。

 ……どこで? この屋敷で? どこにいる? 今まで出会っていない、残るのはこの屋敷の地下室だけだ。


 地下室は、大きな金属の扉で閉ざされていた。

 見つけ出した大きな銀の鍵を使い、中に入るとそこには骨の山がうず高くつまれている。


 そして、そこに居たのは、名状しがたい何か巨大なおぞましいモノ。


 その巨体の何かは、灰色がかった白い油ぎったヌメヌメとした肌、見ているだけで吐き気がする目のないヒキガエルのような体、皮膚はブヨブヨと脈動し伸縮自在に形を変える。

 顔であろう部分には、鼻にあたるであろう部分に、ピンク色の短い触手が生えウゾウゾと蠢いている。


 そいつは、手に螺子くれた槍を持ち俺たちの方を向いて、不快な鳴き声を発した。

 いや、そいつは笑ったのだ、俺たちを見て。


 それを見て俺たちは逃げ出した、叫び声を上げ泣き声を上げ、悪寒と吐き気でめまいがする。


 他の奴らも散り散りに逃げて行ったのだろう、気が付けば俺は一人、この屋敷の大きなキッチンの中に居た。

 電灯は消えていたが、扉の小窓から廊下の明かりが漏れ、うっすらと中を確認できる。

 外から叫び声が聞こえる、誰か見つかったのか? 大きな音がする。

 手探りで中を進み、肉切り包丁を探し出す。


 逃げきれないのか? こんな包丁であの怪物を倒せるのか? ただで殺されてたまるか、逃げられないなら道連れにしてやる。


 コンロのガスホースを切り、元栓を開ける、勢いよくガスが噴出し臭いが立ち込める。

 部屋いっぱいにガスが充満するのも遅くはないだろう、むせそうになるがハンカチで押え無理やり我慢する。


 廊下から音がする、何か固いものを引きずり、大きなモノが足音を立ててこちらに来ている。

 テーブルに陰に隠れ、包丁を構える。

 怪物が中に入ってきて、俺が見つかったら、この包丁で何か叩けば火花ぐらい出るだろう、そうすれば……あんな怪物に殺されるぐらいなら。


 ドアの外に怪物が居るのがわかる、小窓から中を覗き込んでいるのか? 小さなきしむ音を立ててドアが開かれる。

 が。

 少し開けたところで、怪物は小さなうめき声を出して、扉を閉め廊下を移動していった。


 助かったのか? ガスの匂いが嫌だったのか、とにかく怪物は離れていったようだ。

 とりあえず危険は去ったようだ、ならばあの怪物を何とかしなければ、俺たちはここから出られないのだろう。


 俺は、少しむせながら立ち上がり、もう少し武器になりそうなものを探そうと、

 

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火花を刹那散らせ 大福がちゃ丸。 @gatyamaru

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