本人にさえも知らされない選別法により極秘裏に未来を知る能力を見出された少年〝榑枚季典〟
予知により彼を知ったもう一人の予言能力者の少女〝新符遥〟と彼が出会い────そして物語は動きだす。
本作中では、未来を幻視する能力を持つ預言者の予知の能力は不確かであり、予知するだけでは何事も為しえない。
必ず周囲の協力を必要とする。
そんな現実的な〝ままならない〟状況で物語は進行します。
読み進めると、もどかしくさえ見えてしまいます。
しかし、それは我々は〝読者〟であるからです。
この物語を最初から最後まで〝神の視点〟で眺めている傍観者だから、先のことを少ししか知らない予言者をもどかしく思うのです。
この構造が〝予知を扱う物語〟の面白さでもあります。
不確かな予知を不明確な言葉で表すことこそ予言の能力である為、二人は未来を改変するための行動を見出せずにいます。
榑枚と新符は社会的には保護者の必要な未成年であり、制限された弱者でもあるのです。
そして予言した出来事。二人の未来を決定する事件を迎えて、榑枚と新符の取った行動とは────
本作は、改変された社会を描く近未来SFであり、拡張された時間の中で互いを見つけるボーイ・ミーツ・ガール・ストーリーでもあり、そして、思春期の少年が友人や両親、社会との関わりを模索し苦悩する物語でもあります。
これほど多面的な物語ですが、しかしなにより本作は青春小説なのです。
ラストシーンなんて、思春期の若者の思いそのものなのですから。
良質のジュブナイル・ストーリーのテイストに溢れた青春ファンタジー小説、それがこの物語です。
どうぞ一読のほど、お願いいたします。