カーテンコール

継承は肉体的なものと精神的なものの二通りあると考えています。
何かを突き詰めた人は
その魂を誰かに引き継ぐことがある。
「あなた」から「わたし」に引き継がれ
きっと、どこかで「わたし」も引き継がれている。
そうして人を介して魂は生き続ける。

南雲千歳（なぐも ちとせ）と申します。
僭越ながら、レビューを書かせて頂きます。

この作品は、師を失いながらも成功したピアニストの話です。

かなり以前の漫画やアニメ作品などでは、こうした世代間での師弟愛が良く描かれた様に思います。

多くの場合、師は弟子よりも世代が上ですから、弟子に奥義の様な技を伝授し終えると、役目を終えた師は、大抵、何かの理由で死んで仕舞います。
著名な作品ですと、『ドラゴンボール』の亀仙人などでしょうか。
『るろうに剣心』の比古清十郎などは、その例外パターンと言えます。

さて、師が弟子に技術を伝える……それは世代交代の様相であり、異なる遺伝子を持つ個体間で渡される…続きを読む

ピアノに語り掛ける一人称の話です。

どれだけの時が経っても変わらずにいて、求めれば必ず応えてくれるもの。

楽器を扱う人には必ず思い入れがあると思います。作者はその代弁をしてくれております。

季節が流れても、思い出は風化しない。おすすめです！

情緒豊かな音色が聴こえてくるような作品です。

文字が、文章が音を奏でます。
憧れ、欺瞞、奢り、追慕。
奏者の心を映しこんだ調べに聴衆は惹かれ、
そして私達読み手をも魅了します。

１２００字の物語。
５分間の演奏を読んでみて下さい。

ピアノの技術を、すべて教え子に与えた師。
それ以外には、何ひとつ与えることなく。
そうして成長した弟子の、あるワンステージを切り取った物語です。

強烈に人を恋い慕う感情。
痛いほどの甘美な切なさ。キリキリとするような焦燥、苦み。全ての感覚が溢れ出します。

そんな感情を味わい尽くした果てに、主人公の得たものは——何だったのか。

ひとを恋い慕う気持ち。
その想いが叶うことだけが、果たして幸せだろうか——
そんなことを考えさせられる、ずっしりと深い物語です。