"メンタルヘルスの基本は傾聴です。
相手の言葉に耳を傾け、それを肯定するのがカウンセリング。カウンセラーはアドバイザーではなく、聞き手に過ぎないのです。”
と、現実世界でよく聞く話でありますが、ヒロインである全肯定奴隷少女ちゃんは完璧な(?)カウンセラーです。
私もぜひこんなカウンセリングをされてみたい!!と思う一方で、こんなカウンセラー(聞き役)になりたい!!
・・・だなんてニコニコ笑って読んでいた頃がありました。
しかしこの物語は、導入こそコメディチックですがかなり奥が深い作品です。
ジャンルこそラブコメですが、ラブコメの皮をかぶっているだけのダークファンタジー小説だと気づけるはず。
その深みにハマるころには読むことを止められなくなること間違えなし。
もっと評価されて良い作品だと思います!
現代に残る「神話」や「怪談」の内、最も幻想的で、最も妖しく、最も魅力ある物共は、その端を駄洒落に発する。出典の言語も、当時の文化や流行も、後世に知る術が無くとも。
平成末期の一時、「全肯定ハム太郎」という概念が世を風靡した。心の奥の悩みや憎しみを明るく激しく認め、許し、励ます精神安定の方法論。または、それを元にした愚痴ツイートbotだ。
ネット小説における全肯定者と言えば「奴隷少女」か「妹」だが、これに「前皇帝」という地口が重ねられることで概念は壮大に膨らみ、駄洒落は物語に昇華する。
これは、最も純粋な物語を創る為の、最もトラディショナルな方法で綴られたラブコメディなのだ。
全肯定奴隷少女ちゃんの「全肯定」は、耳障りの良い追従ではなく、人を支え、より良く導くものだ。理不尽に傷付く者を慰め、正しく努力する者を励ます。
肯定の糧に成長する主人公・レンはまた、その行き過ぎた素直さにより、時代や環境に歪められた人々を繋いでゆく。
出逢い、成長、冒険、限りなく膨らみ広がる世界は、現代的なテンプレートを用いたポップさを持ちつつも、確かに神話に連なる幻想物語だと思える。
題名に目を引かれ、頭空っぽで読むネタかと思いきや、これが侮れない奥深さだ。題名はアレなのに、『全肯定奴隷少女』なんてパワーワードなのに、中身はとても丁寧で思わず泣きそうになる。
無論、タイトルの勢いは消えてはいない。スイッチONした奴隷少女ちゃんの怒涛の語りは必見。アクセル全開、ブレーキ全壊、かつてこれ程「!」が似合う話が有っただろうか?感想欄まで感嘆符が溢れる感染度合いは、勢いの大切さを思い知らされる。
誰しも人間関係に悩み、自分の中に重たいモノを抱え込む。少女の客はいずれも等身大の人達だ。少年の目線で語られる物語は、誰もが持つ苦しみと、誰もが求める喜びに溢れている。10分という僅かな時間だが、他人のそれで心折られるのも救われるのも、言葉の力だろう。
疲れた心に染み渡るように、頑張りたい心には背を押すかのように。癒やしも元気も貰える作品。
明日も頑張ろうと、そう思えるようになる物語。
“僕には夢がある”
そう断言できる人って、どれだけいるのだろう。
ましてやそれを実現できる人なんて、どれほどもいないのではないだろうか。
挑んで、ぶつかって、すり切れて、逃げ出して、阻まれて。それでも人は前へと進むべきなのだろう。
時には目指すゴールを、夢を変えたって進み続けるしかない時だってある。
進む道を否定され、ゴールすら見失って、それでも。
でも、どうしても前を向けないときが来る。
そんな時、誰かがそっと傍に寄り添ってくれたなら。
“全肯定” “奴隷” “少女”
この小説を手に取る際にいかがわしい文字の羅列に戸惑う人もいるかもしれない。
けれども、ちょっと待っていただきたい。
描かれるのは人間ドラマ。それも特別なものではない。
優しくしたいのに優しくできない、頑張りたいのに頑張れない。
理想と現実の落差、ままならない人間関係。
そんな“あなただけの悩み”が解消されていくカタルシスは、一度見れば
あなたの心をほぐすはず。
頑張る人に、頑張れない人に“全肯定”!
誰かに無条件に認められる体験を、この小説でぜひ!