肯定すれども追従せず、明日をより良く生きる為のボーイミーツガール

 現代に残る「神話」や「怪談」の内、最も幻想的で、最も妖しく、最も魅力ある物共は、その端を駄洒落に発する。出典の言語も、当時の文化や流行も、後世に知る術が無くとも。

 平成末期の一時、「全肯定ハム太郎」という概念が世を風靡した。心の奥の悩みや憎しみを明るく激しく認め、許し、励ます精神安定の方法論。または、それを元にした愚痴ツイートbotだ。
 ネット小説における全肯定者と言えば「奴隷少女」か「妹」だが、これに「前皇帝」という地口が重ねられることで概念は壮大に膨らみ、駄洒落は物語に昇華する。
 これは、最も純粋な物語を創る為の、最もトラディショナルな方法で綴られたラブコメディなのだ。

 全肯定奴隷少女ちゃんの「全肯定」は、耳障りの良い追従ではなく、人を支え、より良く導くものだ。理不尽に傷付く者を慰め、正しく努力する者を励ます。
 肯定の糧に成長する主人公・レンはまた、その行き過ぎた素直さにより、時代や環境に歪められた人々を繋いでゆく。
 出逢い、成長、冒険、限りなく膨らみ広がる世界は、現代的なテンプレートを用いたポップさを持ちつつも、確かに神話に連なる幻想物語だと思える。

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