Last five minutes

狼狽 騒

真っ黒な部屋

 ここはどこだ?


 真っ黒だ。

 真っ黒な部屋だ。


 気が付いたらここにいた。

 壁も足元も、とにかく真っ黒だ。

 そんな中に放り込まれた僕も所々黒くなっており、足首まで黒い液体のようなもので浸されている。

 べっとりした何か。

 あまりに黒すぎて気持ちが悪い。


『目覚めたようね』


 スピーカーを通した声が聞こえた。

 それだけで誰なのかは分かった。


須美すみ!」


 僕は彼女の名を呼ぶ。

 須美は歌手だ。今を時めくアイドル歌手で人気を博している。

 しかしながらだ。

 謎解きやミステリーが好きであり、よく吹っかけてくることはまだ序の口。投げるだけならともかく、解かないと仕事をしないことも多々あったり、突拍子もなく「洋館に閉じ込められて来る!」とレッスンをサボったこともある。今回のような真似も、彼女だから、と言って納得してしまう程だ。

 僕はそんな彼女のマネージャであった。

 故に彼女が出す謎をいつも解かされる役目にあった。結果、かなり謎解きに明るくなってしまった。

 しかし現状は明るくなく真っ黒だ。


「聞こえているんだろ!? どういうことだ!? もうすぐファン限定ライブもあるしこれからレッスンを――」



『【】よ!』



「……は?」


 何を言い出したんだこいつ?


「おい須美! 訳わかんないこと言っていないでこれが何か説明しろ!」

『だから【最後の五分間】よ』

「え? 最後……? 僕、死ぬの……?」

『【最後の五分間】よ』


 微塵にも思っていないことを口にしたが、彼女は一向に説明しない。

 最後の五分間。

 ずっとそれを口にしている。


(……多分、また謎解きだろうな)


 そう直感していると、突如上部が開いた。


 ひらひらひら。

 ――ベチョ。


『その紙を使って考えなさい』

「使えねえよ!」


 落ちた紙は瞬く間に水分を吸って真っ黒になった。

 仕方ない。

 頭で考えるか。


 最後の五分間。


 きっと何か変換しなくてはいけないだろう。

 あと彼女は多分思いつきでやったのだろう。

 だから絶対に須美の仕事に関係することだろう。

 それらを考慮し、そして並び替えて……


 ……………………………


「……そういうことか」


 図らずとも五分間くらい経過した所で、僕は理解した。

 正直、ノーヒントでは絶対に解けない。

 彼女の今の状況を知っている僕でないと解けなかっただろう。


 そう――だということを知っていた僕でないと。



 最後の五分間。

 英語にすると「last five minutes」だ


 これを並び替える。


 l8 a6 s1 t12 f5 i4 v10 e11 m3 i9 n7 u2 t15 e13 s14



 s1u2m3i4

 f5a6n7

 l8i9v10e11

 t12e13s14t15



「Sumi Fan Live Test……おい須美これ、ファンライブでやるつもりなのか!?」


『そうよ。どうだった?』

「絶対やめろ! 精神が狂うわ!」


 須美の声がしなかったり謎解きに頭を使っていなかったら発狂したかもしれない。

 どちらにしろライブハウスでファン相手にこんな真似は出来ない。


『因みにその黒いの全部【すみ】よ。そう――【須美すみ】だけにね!』

「やかましいわ!」

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