メテオ交渉人 宇城宙也

亀虫

東京滅亡五分前

「隕石の衝突まであと五分……我々は指をくわえて見ているしかないのか」


 大気圏に突入し赤い火をまとって落下してくる巨大隕石の映像を眺め、時の総理大臣が嘆いた。終焉しゅうえんを悟った官僚ともども絶望的な表情でうつむいていた。

 20XX年、東京は未曽有みぞうの危機に瀕していた。間もなく隕石によって日本の首都が消滅しようとしており、世間は大パニックに陥っていた。慌ててその場から逃げ出そうとする都民によって、道路は自動車のエンジンとクラクションの音、駅は喧騒けんそうと悲鳴と駅員の拡声器を通した声で満たされており、さながら人の海から溢れだした音の洪水であった。

 隕石の落下が発覚したのはつい昨日のことで、急な出来事だった。地球近くを通る小惑星が落下してきたのである。その存在自体は以前から観測されていたのだが、まず落ちてくることはないだろうと予想されていた。しかし、何故か予想に反し突然地球への墜落ルートを取り始めたのである。そして、運の悪いことに落下予想地点は東京都の中心部。それが判明したのが昨日の朝。逃げ出すには遅すぎる時間である。ほとんどの住民が一斉に家を飛び出したため交通がマヒし、誰もが逃げようにも逃げられない状態になっていた。


「くそっ、何か手立てはないのか!」

 総理大臣は机を拳で叩き、悔しそうに声を絞り出す。しかし、それに答える官僚は一人もおらず、皆一様に首を横に振るだけだった。


 そんな状況の中、テレビはドローンで上空から撮影された街の様子を映し出しており、ニュース番組のアナウンサーは必死に現状を伝えていた。

「……見てください、ビルの屋上に人がいます! 逃げ遅れた方でしょうか!?」

 カメラの先には、彼の言う通り人が立っていた。カメラはさらに近づき、ズームアップした。立っていたのは初老の男性だった。


「あれは……外務大臣? 宇城宙也うきちゅうや外務大臣! 一体何をしようというのでしょうか!」

「何、宇城くん!?」

 テレビの声に総理大臣が反応し、それから続々と他の官僚たちもテレビを覗いた。

「本当だ、この場にいないと思ったら何をしているんだ宇城は!」

 財務大臣が怒り交じりに叫んだ。


 宇城外務大臣は変わり者として有名で、不思議な雰囲気をかもし出している人物だ。それゆえネットでの仇名あだなは「宇宙人」。だが、その仇名とは裏腹に本当に意味不明な行動をとることはこれまでなかった。

 しかし、今の彼は奇怪だ。突如両手を上げ、上空を凝視しはじめたのだ。


「……あれ、見てください、隕石の軌道が変わりました!」

 アナウンサーは叫ぶ。宇城大臣の行動の直後、隕石は急に軌道を北東に変え、東京に落ちることはなくなった。

「な、何だかわかりませんが、東京は救われました!」

 

 その後、宇城大臣宇宙人説はより信憑性しんぴょうせいが増した。彼が隕石と直接交信して東京を避けるよう交渉したのだという噂だ。その噂は後にオカルト界隈かいわいで語り継がれることになる。


 なお、隕石は北海道に落ちたので道民からは恨まれている。

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メテオ交渉人 宇城宙也 亀虫 @kame_mushi

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