ただ1つの望み
雪崎綾乃
何を想って終えるのか
『世界滅亡まであと5分らしいね』
『皆余生を過ごせってことで店開いてないのマジ困る〜』
『それよ笑』
『でも店開いてなくても勝手に取るけどね笑』
世界滅亡と言われ、もうあと5分後には隕石が降ってくるらしい。
どこに墜ちたとしても地球が破裂すると言われている。
全国、いや世界中が皆働くことをやめて、余生を過ごしている。
1週間前に「確実に墜ちてくる」と世界中の研究者達口を揃えて言ったこと。人工衛星が捉えた映像と予測から墜ちてくることが確定してしまったことから、世界中のテレビは1つの映像しか流していない。
1週間前から人々は自暴自棄になり、働くことをやめた。当然、世界は終わるのだからお金持ちも貧民も関係ない。皆お店の硝子を割り、商品を無断で持ち出した。
さあ、あと5分。
ある人は好きな人と共に過ごすことを選んだ。
またある人は自分の好きなように1週間を過ごし、最後はネットでこう書いた「5分後だから先に言う。おやすみ」と。この人は引きこもりだったのだろう。滅亡は日本時間で午前10時。この人は午前4時まで起きていたのだから寝て滅亡の瞬間を迎えることにしたのだろうか……。
『滅亡怖ー』
『本当に滅亡しなかったらどうするー?』
『ばーか、滅亡するって断言あっただろ?現に今も衛生の映像ではっきりと地球に向かって来てる』
ネットでは滅亡のことのみがタイムライン上に流れてくる。思うのは人それぞれだと思うが私も書き込んだ。
『滅亡やだなあ……まだまだ楽しいことしたかった』
書き込みが完了したのと同時にガチャッとドアが開いた。
「何だよ?」
「滅亡するから来ちゃった」
彼の元へ、最期に言いたいことがあってどうしても会いたかったんだ。
「でもなあ……」
「大丈夫、すぐ済むから」
渋る彼の言葉に笑顔で返して鈍色の鋭い刃を振るう。
「……一足先におやすみなさい。ずっと嫌いだったの。私を縛るのが鬱陶しくて、私の受けた傷をそのまま返したかった。滅亡だから警察も仕事を放棄してるの。だから……」
赤い液体が地面に広がる様を見ながら私は言葉を零す。
「だから、私が罪人になることもないし、幸せな気持ちのまま人生を終えることができるの。さよなら」
世界滅亡の時間まで10秒。
スマホで衛星中継を見ながら私はその場をコツコツと離れる。
さよなら、私の世界。
さよなら、私の未来。
来世もどうか幸せでありますように。
そして眩い光と熱さに目を閉じて、私は終末を迎えた。
はずだった……。
「世界滅亡だから殺しました」
「被告を懲役8年の刑に処す」
『電波人間らしいよ』
『世界滅亡とか有り得ねえって、何処の世界だよ』
『世界滅亡5分前殺人とか怖すぎ、実際無理でしょ笑』
世界滅亡、訪れないかなあ……?
ただ1つの望み 雪崎綾乃 @Ayano_snow
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます