第8話 いざ、尋常に
物語の終わりにしてはあまりにも唐突すぎて、僕は呆然とした。
その道中のことである。
「……はあ、はあ。つかまえたよ」
声の聞こえる先には、先輩がいた。
左手には女性をつかみ、右手ではピースサインを掲げている。
「杏沙、さん?だ、だれですか?」
その時だった。
その瞬間だった。
その刹那だった。
手草さんは、その場に座り込んでしまった。呼吸は限界を超えそうなほど早く、瞳孔は見開いていて焦点があっているようには見えない。
「……こんちは」
そう挨拶する女性は、むすっとした顔のまま、こちらを向いた。
「なんすか、あたし、用があるんすけど」
「この子ね、手草さんを苛めていた、主犯格なの。紀野雅(きの みやび)さん」
「……主犯格?」
「ちょっ、その言い方止めてくれる?」
主犯格さんは、杏沙さんの手をぐっとつかんだ。
「やめてくれるかな。私の腕は、お金が宿るんだけど」
普段はそんなことを言わないのだろう。そこまで言わせるということは、杏沙先輩は相当怒っていると言える。
「……ちっ」
そう言うと、すぐに手を離した。
「……じゃあ、場所を変えましょうか」
姉に手草さんを預け、僕達は近くの公園に行った。
「……話を聞かせてもらってもいいですか?」
僕の質問に対し、彼女は渋々ながら話した。
その話はとてつもなく凄惨で、地獄で、惨憺たるものだった。
「……どうして、それをしたんですか?」
「どしてつーか、だってそうしてほしそうだったから」
そんなことがあるのだろうか。
「あの子、ずっと友達どころか話す人すらいなさそうだったから。授業もロクに参加できなかったし。だから、私達が手伝っていたんだ。あと、ちょっとストレスもたまっていたし」
「……そのやり方を、酷く間違えたということですね」
杏沙先輩は、憎しみを思う存分詰め込んだ言葉で返した。
気まずい空気が流れる中に、手草さんは帰ってきた。
「……」
「……」
僕は何ができるのだろうか。
僕には、できることがあるのだろうか。
僕には、僕には。
「ちなみになんですけど」
絶対にこのタイミングで聞くようなことでは全くないとはわかっている。
しかし、僕にはこれが最善策だと思ったのだ。
「杏沙先輩、小説を書き続けているのは、なぜですか?」
皆の視線が僕のところへと集まる。
恥ずかしくて顔が火照ってくるが、我慢した。
「私ですか⁈」
びっくりした様子だったが、すぐに答えてくれた。
「私は……結構ストレス発散になるからですかね。もちろん、ストレスになることもあるんですけど、自分の気持ちを前面に押し出せる機会もそうそうないので」
「やっぱりそうですよね」
期待に応えてくれる先輩だ。
「じゃあ、皆で文芸部に入りましょうよ!」
「……はぁ?!」
皆のその反応は織り込み済みだ。
「何で私まで⁈」
主犯格さんの反応は、やっぱり大きかった。
「仲直りしてもらいたいですし。ストレス発散にもなるわけですし」
「……私は、大歓迎ですよ」
杏沙先輩の許可は得た。
「私も、大丈夫」
手草さんの理解も得た。
「わたしもはいるっ!」
姉の許可は要らない。
「……分かったよ」
こうして僕達の文芸部は、始まったのだ。
幽霊と歩む文芸部っ! 三河安城 @kossie
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