ショートアニメ「さかいめメイツ」第13話『ずっと忘れない』
扇智史
* * *
コマーシャルが終わると、並んで歩くふたりの少女の足下が映る。画面の右下に『13話 ずっと忘れない』というタイトルが表示される。
手前側を、茶色いローファーがかろやかな歩調で進んでいく。その奥を、黒い革靴がいくぶんゆったりと、すこしみじかい歩幅でついていく。西日を反射して、アスファルトが点々と光っている。
ふたりの少女の顔が前方から映し出される。右側にいる銀色の髪の少女が、左側の黒髪の少女に、すこし上目遣いで話しかける。微笑みながら口を開いていた少女は、つかのま驚きの表情を浮かべ、背伸びをするように黒髪の少女に顔を近づける。黒髪の少女は、黒目がちの瞳で銀色の髪の少女を見つめながら、ゆっくりした所作でうなずく。
少女たちの顔が、上下にリズミカルに揺れ動き続ける。とりとめもない会話が続く。背景の空は薄い青色をしている。
銀色の髪の少女が、わずかに顔を上げる。画面を埋め尽くすほどに大きな瞳の隅に、白い西日の輝きが宿る。彼女の住む異界との境界が閉じるまで、残りわずかの時間しかない、という、第12話において説明された事情は、彼女の口からは語られない。
黒髪の少女が、いくぶん目を細めて、肩にかかった髪を払う。一筋ごとに濃淡を帯びた髪が、生き物のようにうねって滑り落ちる。狭隘な家、いなくなった父親、仕事で家にいない母親、というこれまでの各話において断片的に示された事情は、彼女の口からは語られない。
鬱蒼と茂る木々と、その間をまっすぐに突き抜ける長い石段が映る。石段の下で、少女たちが立ち止まる。
少女たちの制服の布地を、木漏れ日が、斑点のように染める。
銀色の髪の少女が、はにかんだ笑顔で別れを告げる。唇が細やかに開いて、閉じて、最後には真横に閉じる。少女の背景は、青く影に染まっている。
黒髪の少女が、やるせない笑顔で別れを告げる。光が、少女の後ろから、彼女の輪郭を彫琢するように射している。瞼と睫毛が上下し、少女の目は半ば閉じて、視線を足下に落とす。
銀色の髪の少女がきびすを返し、石段を上り始める。ローファーが石段を踏む足音が響く。
足音にエコーがかかる。
風の音がする。黒髪の少女が自分の髪を押さえる。一枚一枚の葉脈まで鮮明に描かれた無数の小さな葉が、画面を左から右に通過していく。
黒髪の少女の瞳が映る。瞳をなぞるように、白い光が弧を描いて、消える。
石段の上に、枯れ葉だけが残されている。風の音が鳴り続けている。
黒髪の少女の、鼻梁の下から胸元までが、真横から映される。少女の表情は、解らない。一度唇が開き、かすかな吐息の音がして、唇が閉じる。
長い黒髪と、少女の背中が映る。少女が振り返る。少女の笑顔は、画面のこちら側に笑いかけているように見える。
画面が暗転する。エンディングテーマが流れ出し、スタッフロールが始まる。
ショートアニメ「さかいめメイツ」第13話『ずっと忘れない』 扇智史 @ohgi_
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