ワルキューレの息子たち
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ワルキューレの息子(こども)たち
──目が覚めたとき最初に感じたのは、テントの薄い
「やれやれ、ようやく気がついたのかね?」
そして最初に目にしたのは、やはり見覚えのない、七十がらみの一人の老人の姿であった。
頭髪のない分を補うように口元全体を覆い隠している
「……ここは、いったい?」
「安心したまえ、ここは野戦病院だ。──ただし残念ながら、君の軍の所属ではないがね」
たしかにそれほど広くはないテントの中には、俺が寝ている分も含めてベッドが六台ほど並べられており、一番奥には彼ら『帝国軍』の、偉大なる
つまり俺は、敵の捕虜になったってわけか。
たしかあの時、俺の小隊は敵軍の『接近』を確認して、それから俺
「ええとその、『
「あくまでもわしは、本国の研究機関の開発責任者として、この小隊に随行しておるだけでの。できれば『
「そんなことよりも、なぜここには俺しかいないんだ? 他のやつらはどうしたんだ⁉」
思わず身を乗り出した俺はその時初めて、自分が点滴につながれていることに気付いた。
「……君は、運が良かったのだ」
「わしらが到着した時にはすでに、君たちの部隊は壊滅状態となっていたのだ。──唯一、君だけが幸運にも『薬』を吐き戻していたお陰で、どうにか助かったというわけだ」
そしてその老人は、いかにも世の無常を
「これでいったい何件目かのう。君たち連合軍ご自慢の『
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
──吸血鬼の軍隊。
それはまさに、不死の戦士のみで構成された、かの『ジークフリート』の神話の再来であり、この世のすべての軍国主義者たちが恋い焦がれてきた、決して
しかも運の悪いことに、その最初の実験部隊が投入されたのが、現在俺たちの小隊が展開している、この『砂漠戦線』であったのだ。
その情報を入手した軍上層部は、我々『極地偵察小隊』全部隊に敵実験部隊の早期発見を命じ、この大砂漠の各方面へと派兵したのである。
しかし、程なく『
──無理もなかった。
何しろ相手は『不死の
もちろんこれについては、まさしく俺自身の部隊においても、けして例外ではなかった。
何と昨夜、それまで追跡していた敵に逆に発見されてその接近を許すやいなや、全員あらかじめ支給されていた自決薬をあおり、未知なる恐怖にさらされる前に、
──そしてその結果、ただひとり俺だけが、
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
「──これは、君の
その時いきなり眼前に突きつけられたのは、散々見飽きた白くて細長い一本の棒だった。
「おいっ。あんたまさか勝手に、
「捕虜に対する最低限の予防処置だよ。またおかしな薬なんかを、隠していてはかなわんからな。まあ、別に問題もないようだし、これはお返ししよう。それにしても君は本国で、どこぞの楽団にでも所属していたのかね?」
「……学生時代に、ちょっとかじっただけさ。別にどうだっていいだろう、そんなこと!」
「やれやれ、そんなにとんがらなくてもいいだろうに。たしかに君のご同輩にはお気の毒じゃったが、我々の方だっていい加減迷惑しとるのだよ。いくら非常に特殊な実験部隊とはいえ、こうも
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。そんな言い方はないだろう。だいたいそっちが『化物の軍隊』なんて非常識極まるものを、実戦に投入してくるからいけないんじゃないか!」
「おいおい、忘れてもらっては困るよ。我々は戦争をしておるのじゃぞ。元々常識も非常識もありはしないのだ。それでも我らとて、最低限のルールは守っているつもりなんだがね。まさに今この瞬間、君が無事に
出し抜けに捕虜にとって『一番痛いところ』を突かれて、俺は思わず言葉に
「それにのう、いくら『吸血鬼』とは言ってもな、うちの
何とも
「……おあー、ううー」
「おお、もう終わったのかね。早かったな」
──こ、子供⁉
何とそこに現れたのは、いかにも場違いだとしか思えない、十三、四歳くらいのいまだあどけない、一人の少年だったのである。
まるで
まさに絵に描いたような『美少年』の御登場かとも思われたのだが、なぜだかその見目麗しい
「暑い中ご苦労だったね、みんなにも休むように伝えなさい。少し早いがオアシスで水浴びでもして、
「うあー! うあー!」
その言葉を聞いた途端、少年は満面を笑みで輝かせながら、まるで純真無垢な
「あれが噂の『
しかしその老人は、むしろ俺の方を哀れむように、意味深な笑みを浮かべて振り向いた。
「その可哀想な子供たちのほんの十数名ほどの部隊に、勝手にパニックを起こして自滅しているのは、どこの軍隊だったかのう?」
──何だと、ま、まさか⁉
「そう。あの子を含めたたった十三人の少年兵たちからなるこの部隊こそ、我が
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
『ワルキューレ』──それはかの
「しかし、だからといってなぜ俺が、こいつらの世話なんかをしなければならないんだ⁉」
今この俺を、期待と好奇の
何だこいつら。この灼熱の真っ昼間に、こんなところで『砂遊び』でもしていたのか?
そう。俺はあれから
「ほっほっほ。お見合いでもないことですし、見つめ合うのはその辺にして、早速『水浴び』あたりから取り掛かっていただきましょうか」
「ふ、ふざけるんじゃない。誰が、自分の仲間を死に追いやったやつらの面倒なんか、見るもんか! 第一、捕虜に対する不当な労働の強制は、重大なる戦時協定違反だぞ‼」
「この程度の作業なら、別に問題もないだろう。それよりもご覧の通り、この子たちときたら、見事なまでに全身砂まみれじゃろう?」
「はあ? それがどうしたって言うんだよ⁉」
「実はの、これはこの子たちがこの暑い中、君のお仲間の
「──何だって⁉」
その言葉に砂丘の斜面へ視線を走らせると、たしかに所々に掘り返したばかりだと思われる、他よりも黒々とした箇所が見受けられた。
「……そ、それで、あいつらの『検死』の結果の方とかは、どうだったんだよ?」
「検死じゃと? そんな必要もなかったわい。何せ全員ひどい死臭と死斑で、しかもこの暑さじゃ。早く埋めてしまう
「そう、そうか。それじゃ仕方ないな。いや、何ね。自分一人だけが助かった分、あいつらのことが無性に気になってしまってさあ」
「ほう、それはそれは。まあ何にせよ、心配事が一つなくなったのは、結構なことじゃて」
博士のその、何だか思わせぶりな
……どうやらこの
「とにかくじゃ。この子たちの方が先に『範』を示してくれたわけなのだから、今度は君の方が、『誠意』を見せる番ではないのかね?」
「た、たしかに、仲間を
「どうしてじゃ、何をそんなに嫌がるのだ?」
「だってよ、こいつらこんな子供の姿をしているけど、正真正銘吸血鬼なんだろう⁉ 俺は
「おほほほほっ。何じゃね、『戦時協定違反』だの何だのと言っておきながら、結局それが理由だったのかね? こんな幼い子供たちを前にして、何を言い出すかと思えば!」
「笑いたければ笑うがいいさ。俺は自軍の陣地に帰らせてもらうからな。こんな馬鹿げたことに、これ以上つきあってられるか‼」
「ほう、どうやって前線まで帰り着く気じゃ? まさかそんな点滴を抱えたまま、この大砂漠を横断していくつもりじゃないだろうね」
「そうだ、すっかり忘れていた。こんなもの勝手につなぎやがって、今すぐ
「それはやめておいた方がいいじゃろう。何せそれこそが、現在の君にとっての唯一の、水分とエネルギーの供給源なのじゃからな」
──な、何だってえ⁉
「我々はあくまで『実験部隊』なのじゃ。原則的に余分な食糧など用意しておらぬ。それで万が一、君のような捕虜を生じてしまった場合には、点滴の支給によって
すっかり
「みんな喜べ。今日からこのお兄さんが、おまえたちの世話をしてくれるそうだよ。さあ、最初はお待ちかねの水浴びだ!」
「うあー‼♡」
その純真無垢な顔に満面の喜色を浮かべて、十三人の吸血鬼たちは、俺へと飛びついてきた。
「うわわわわっ。や、やめてくれ、俺はオカルトとピーマンはダメなんだ。こんな不摂生な男の血なんか飲んだら、健康に悪いぞ!」
砂漠へ押し倒され砂まみれになった俺に、博士の駄目押しの声が降りそそいでくる。
「ほっほっほっ。もうすっかりなつかれてしまって。いやあ、大歓迎のようですなあ。この調子でこれから先、仲良くお願いしますぞ」
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
「きゃははははは!」
「うわぁーい‼」
「──待ちやがれ、てめえら。こっちはこの歩きにくい砂の上で、点滴なんぞ抱えてんだぞ⁉」
しかし、
天使のような笑顔と一糸まとわぬ生まれたままの姿で、ふざけながら互いに水をかけ合ったり泳ぎ比べをするその姿は、ほとんどただの『水遊び』としか思えなかった。
「……こうして見ている分には、普通の子供たちと、ちっとも変わらないんだがなあ」
もちろん、なし崩し的に引き受けたとはいえ、世話係としての役目も忘れてはいない。俺は頃合いを見計らい、泉に向かって叫んだ。
「おお〜い。そろそろ背中を流してやるから、こっちにきて一列に並びな!」
喜び勇んで岸辺へと集まってくる子供たち。
ズラリと並んだ白磁の背中は壮観の一言につき、俺は不覚にもしばしの間
──うん? 何だ、こりゃ。
「──うあ、ん〜ん?」
「あ、悪い悪い。今すぐ洗ってやるからな」
待ちかねて振り向いた
何といってもこいつらは、その辺の人間の子供とはわけが違うんだし、いちいち気にしてたら、この先つき合っていけないだろう。
俺は
しかし、少年たちに
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
慣れない作業に思いの
もっとも、料理自体はすでに前もって用意されており、俺はでき上がった分を食事用テントへと、運び込むだけでよかったのである。
それでも片腕を点滴につながれたまま、十三人分の食事を放り込み
「ほ〜い、お待ちかね。
俺はテントの
だが、その時俺を待ちかまえていたのは、闇の中で燃える、二十六の火の玉であったのだ。
「おまえら、明かりもつけずに──ちょ、ちょっと持て、今配るから……うわわあっ‼」
待ちくたびれもはや我慢できず、俺めがけて襲いかかるように、殺到してくる子供たち。
その刹那、蓋をはじき飛ばされ
──まさかこれって、『生肉』じゃないのか⁉
まったく調理の跡が見られない、自分の頭部ほどもある肉塊へと、むしゃぶりつく少年たち。その顔や腕を始め全身が血糊と肉片とによって、みるみる真紅へと染め上げられていく。
「──うぇっぷ!」
思わず吐き気を覚え、顔を
「おや、お気に召しませんでしたか。『人間の生き血』の方が、よろしかったですかな?」
振り返れば、もはや見飽きた皮肉な笑顔が。
「──
「ご安心なさい、あれはけして人肉などではありませぬぞ。すべて牛や羊の肉なのじゃ」
「ご安心だと? あれ全部生肉じゃないか!」
するとその老人は、ほとほとあきれたふうに、ため息まじりに言い放った。
「やれやれ。ほんの数時間一緒にいただけで、もうお忘れなのかね? 彼らはれっきとした吸血鬼なのだよ。生肉ぐらい平気じゃわい」
その言葉に、俺は今更ながら
そうだ。こいつらはただの無邪気な子供なんかではなく、俺にとっては戦友の
俺はもはや言葉を失い、まるで『
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
──それから数日後の真夜中の、病院テント裏の砂丘の下。
子供らもすでに寝静まっているであろう兵舎用テントから、あたりを用心深く見回しながら忍び足で出てくる、いかにも怪しい人影。
「……これで五夜連続か。いくら何でもこんな時分に、軍医殿のお出ましを必要とするほどの急病患者が、そう
その
「さてそれでは、まずは少年たちの『真の姿』を、拝見させていただくことにしますかな」
もちろん俺としても、あのまま
必ずや子供たちの──いや、この部隊そのものの秘密を、
「ちょっくら、失礼するよ〜」
そうひとりごちながら、テントの入口の
「なっ、何だこりゃ⁉」
その時俺の眼前に広がっていたのは、あたかも
「……何でテントの中に、こんなものが」
いや待てよ。この枝みたいな
「しかも、何だか変な液体みたいな物も流れているし……。やだやだ、だから俺は、こんな
──くすくすくす。
その俺の言葉に応じるかのように突然聞こえてきた、鳥のさえずりのような忍び笑い。
恐る恐る声のした方を見ると、枝の下に木の実みたいにぶら下がっている巨大なガラスケースが、闇の中から浮かび上がってきた。
「うーあ♡」
その刹那思わず『ご対面』してしまったのは、
そう。その大型の培養ケースの中身を満たしている液体の中で、一糸まとわず
「──ひいっ!」
しかし、なぜだかその時の俺には、その見慣れた少年のことが、そして彼の無垢なる笑顔が、『無性に恐ろしく』感じられたのである。
その本能的恐怖に
だが、その途端背中にも、ひやりとしたガラスの感触を感じたのだ。
ウフフフフフ。
クスクスクス。
アハハハハハ。
気がつけばすっかり、少年たちの哄笑の
「うわあああああああ‼」
その、『
「──こんばんは。おや、どうしたのです? そんなに大慌てなされて」
無我夢中でテントから飛び出そうとした時、あの聞き飽きたとぼけた声が行く手を
「
自分がここへ内緒で忍び込んできたことも忘れて、俺は慌てふためいてまくし立てた。
「ほっほっほっ。驚くのも無理はない。この巨大なる培養装置こそ、まさしくあの子らにとっての、『子宮』のようなものなのじゃ」
「『子宮』──だってえ⁉」
その言葉に思わず振り返ってみると、今や安らかな寝顔でケースの中に漂っている彼らの姿は、まさに母親の胎内で
「お、おい、あの子供たちの背中から出ている、細い管みたいなものは何なんだ⁉」
そう、俺自身、ここに至ってようやく気付いたのである。培養ケースの天井部から出ている、五、六本ほどの細長いチューブ状の物が、何と少年たちの裸の背中へと、直接
「あれは言わば、へその
「な、何だって⁉」
「実はこの子らは元々、『
なるほど。それでこの培養ケースやチューブが、『子宮』であり『へその緒』だということなのか。
つまり今俺は、彼らの吸血鬼としての『新生の場』に、立ち会っているわけなのだ。
「……だけど、何でそんな自分の部隊にとっての、最重要とも言える機密事項を、敵軍の捕虜である俺に、こうも
俺は目の前の、この実験部隊における実質的責任者に対して、至極当然な疑問を投げかけた。
しかしその
「──その理由ならば、ほかならぬ君自身が、一番よく知っているのではないのかね?」
すかさず返されたその思いがけない言葉に、俺は完全に言葉に詰まってしまった。
「おやおや、何だか顔色が悪いようじゃな。やはり夜更かしは
そう言いつつ、自分の方こそ生あくびをしながら、さっさとテントを後にしていく老人。
それを見送った後で、ようやく自分を取り戻した俺は、ぽつりとつぶやくのであった。
「あの狸親父、やっぱり気付いていたか。これは少し『計画』を早めた方がよさそうだな」
そしてその醜くも美しき、巨大なる『子宮』の方を見上げながら、俺は密かにほくそ笑む。
「──それにすでに、一番知りたかった『情報』の方も、すっかり手に入れたことだしな」
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
次の晩は、おあつらえ向きの満月であった。
俺は真夜中を過ぎるのを待って病院テントから抜け出し、偵察部隊の同僚を埋めた墓所や、少年たちの眠る兵舎テントが見渡せる砂丘の頂上に陣取り、
──リヒャルト=ワグナー作曲『ニーベルンゲンの
生きとし生けるものがすべて眠りについた、まるで『死の世界』のような大砂漠の真ん中で、俺はひとり無心に指揮をし続けた。
そして曲が
まさに月光の魔力により、
その世にも奇妙なる萌芽は、さらに複数の
「──さあ行くのだ、冥界より
俺が
そして『惨劇』の幕が、切って落とされた。
男たちはあくまで素手だけで、少年たちへと襲いかかったのだが、それでも十分に
何せその体格から
首を絞められ、培養ケースごと握りつぶされ、あるいは血液を供給中のチューブを無理やり引き抜かれ、次々と命果てゆく少年たち。
中には果敢に男たちに反撃し、その腕や腹に
しかし、『吸血鬼』にその
──なぜならこの時の少年たちは、『ごく普通の人間』でしか、なかったのだから。
彼らが『吸血鬼の血液』を補充しなければならない時。それは当然、吸血鬼としての能力が最低レベルにある時──つまりは、人間とほぼ同程度の力しかない時なのである。
そう。俺たちはこの時を──この哀れな子供たちを『ただの人間として殺せる』瞬間を、ずっと密かに待ち続けていたのであった。
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
爆音をあげ次々と離発着を繰り返す、我が軍の『
一方、かの大男たちも今やおとなしく隊列を組み、輸送機の格納庫へと歩を進めていた。
しかしなぜだか、出迎える搭乗兵たちの銃口は、この今回の作戦の『最大の功労者』たちの方へと、照準が合わされていたのだ。
そう。まるで何かの拍子に大男たちの抑制が
「──まあ、仕方なかろうて。何といっても相手は
俺のすぐ横でじかに砂漠の上にしゃがみ込んだまま、その時
「しかし、『
その皮肉まじりの『お誉めの言葉』に対し、俺も彼同様前方を向いたまま、けっして視線を合わせることなく、おどけるように言い
「いやあ、我ながら自分の才能が怖いくらいさ。この『
しかし、せっかくの『
仕方なく俺がため息まじりに砂漠へと座り込んだ時、ようやく博士がぼそりと口を開く。
「──のう。結局わしらは、どっちがどっちを利用していたのかのう」
その唐突な問いかけに対して、俺は砂をいじりながら、いつもながらに
「さあねえ。多分、どっちもどっちじゃないのかな。まあ、俺たちは言うなれば、出会った時からずっと、『
「ふん、『タヌキとキツネ』か。違いない!」
何がそんなにお気に召したのか、さも愉快そうに、博士は腹を抱えて笑い出した。
そりゃあ、あんたはご満悦だろうよ。俺に利用される振りしながら、まんまと望み通りに、あの子たちを殺すことができたのだから。
そう、あんたはこれ以上見ていられなかったのだ。
「なあ、最後に一つだけ教えてくれよ」
「ほう、どうしたのじゃ? 急に改まって」
「いや、そのう……実は、ずっと聞いてみたかったんだけど、吸血鬼の部隊の中にたった一人でいるのって、いったいどんな感じだったんだ? いくら開発責任者の一人であり、相手は子供ばかりだったとはいえ、やっぱり何かと心細かったんじゃないのかい?」
……まさか、そのためにあんたは俺を使って、子供たちを殺させたんじゃあるまいな?
「ふはははは。今さら何を言い出すかと思えば。それじゃったらわしも、是非ともあんたに聞いてみたいことがあるんだがのう」
「な、何だよ。俺の方は少しも構いやしないぜ。何でも好きなだけ聞いてみなよ!」
それを聞くやいなや老人は、その顔にいかにもわざとらしい満面の笑みをたたえながら、初めて俺の方へと振り向いたのである。
「──それでは教えてくれたまえ。そもそも人殺しを目的とする軍隊で、それが人間の兵士であろうと、吸血鬼の兵士であろうと、どれほどの違いがあると言うのかね?」
ワルキューレの息子たち 881374 @881374
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