第15話ポジション

 とりあえず一件落着した形で、みんなで荷物を持って下へ降りた。すると、建物の出入り口近くで、あの山本瑞樹が立っていた。

「あ、誠!良かった。もう帰ってたらどうしようかと思った。」

山本は半分泣きそうな顔をして走ってきた。先輩二人はそこで別れを告げ、先に帰った。

「瑞樹、来てくれたのか?ありがとな。」

佐々木が言うと、山本はぱっと下を向いた。そして、周りをちらっと見渡し、

「あのさ、ちょっといいかな。」

と言って廊下の奥の方を差した。そして山本は先に立って歩いて行き、角を曲がった。佐々木も後について行った。後に残った3人は、顔を見合わせ、2人が行った方を指さし、うなずき合った。そして、そうっと近づき、角を曲がる直前の所で止まった。そこに行くと、山本と佐々木の話し声が聞こえた。

「今日、すごい良かったよ。」

「おう、サンキュ。」

「あのさ、お願いがあるんだけど。」

山本はそう言って少し間を置いた。

「どうした?瑞樹。この間の、下の名前で呼んでっていうお願いは聞いてやっただろ?」

「そうか、俺お願いしてばっかりだね。」

そして、また間を置く。

「あの、俺と付き合って欲しいとは言わないから、渡辺和馬のポジションが欲しい。あいつより上に行きたいんだ。」

それを聞いて、角谷と朴は思わず手で口を押え、和馬を見た。和馬は口をポカンと開けて二人を見返した。すると、佐々木がこう言った。

「それは無理だな。」

山本ははっとして目を潤ませ、朴と角谷は更に口を強く抑えて和馬を指さした。

「俺にとって、和馬と正樹とヒョンスは特別だ。その上には誰も行けない。」

佐々木はそう続けた。それを聞いて、角谷と朴は押さえていた手を離した。和馬と3人で目を見かわしてニヤっと笑い、それからそっと元居た場所へ戻った。

 山本はふっと笑った。

「確かに、君たちの絆は強いよね。あんなすごい演奏を一緒にするんだもの。」

「お前も吹奏楽部、入るか?そうしたら同じ場所へ来れるぞ。」

佐々木がそう言うと、山本は、

「俺は音楽が苦手なんだよ。」

と言って歩き出した。もう話は終わったという感じで。佐々木も後についてみんなが待つところへ向かった。

「じゃあ、俺は先に帰るから。また明日ね。」

山本は、佐々木とその他の3人にも手を振って、帰って行った。

「告白でもされたのか?」

角谷が佐々木に言うと、

「そんなんじゃねえよ。」

と佐々木は言った。

「吹奏楽部に誘ったんだけどさ、あいつ音楽苦手なんだって。」

とも言った。

「へえ。」

そう言って、和馬はあはははと笑い出した。つられて朴と角谷も笑いだした。佐々木も何となく笑った。

 ラブは実らなかったけれど、今日は充実した日であった。

                                 完

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サッカー少年が吹奏楽部に入ったら2 夏目碧央 @Akiko-Katsuura

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