1994年にタイムスリップした高校生と家族との青春模様

 この小説はまだ未完である。
 だが読者のひとりとして、ラストに向けてもっと多くの人に読んで欲しいという思いは強くある。
 少し長くなるが書かせていただく。
 この作品は、喫茶店に入った高校生の少年賢太朗が、突然、1994年の故郷にタイムスリップして、和菓子屋を営む祖父母や両親、美沙という少女に出会うひと夏の青春模様である。

 タイムスリップのジャンルの作品など、うんざりほどある。 ライト小説の定番といってよいだろう。
 だかあえて言う。
 この作品の主人公は、タイムスリップしなければいけなかったのだ。

 すでに他界した母親。なつかしい気持ちはあるものの、必ずしもよい印象ばかりではない。
 タイムスリップした先で主人公の少年は、はからずも若き日の母親と出会う。
 それは自分の知っている母親ではない。
 祖父を慕いながらもささいな行き違いからよそよそしい関係となっている。なんとかしたいと思いながら一歩、前に進めないまま、若い日々を過ごす母親の姿。
 それは家庭を持ち、自分に厳しく接していた母親とは違う。
 身近になった母親への新たな愛慕。慟哭・・・

 だれもが通る青春。
 今の自分の姿を現実で見た時、
 「青春を過ごしたあの時、こうすればよかった」
と思いながら結局、どうすることもできないまま過ぎ去った日々をなつかしむしかできない。
 苦い現実。
 それでもあの頃の自分に戻れたら・・・
 もしかしたら・・・
 今の自分のそばで、自分の辿った年齢を生きている子どもたちの思いを、もっと正面から理解し受け止めることができたかもしれない・・・
 この小説は、今を生きる私たちの涙腺を刺激する「さわやかな夢物語」である。
 そしてタイムスリップという非日常的な出来事を通じて、真剣に恋や青春に立ち向かう少年の「さわやかな青春小説」である。
 作者の作品には、青春に真正面から向き合った真摯な姿勢が流れており、ひたむきに生きる若者たちの姿が大きな感動を呼び起こしてくれる。
 今、若い人も・・・
 昔、若かった人も・・・
 ぜひ青春して欲しい。
 この小説を読んで欲しいと思う。
 
 
 
 
 
 
 

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