夏と、男と、女と、後悔

反比゜例

追憶、後悔、無間独言。


時は決して、いくら願おうと巻き戻らないのだと。

そう思い知らされた。

愚かだった。

その感情に気づくにはあまりに若かった。

若造だった。

悪いのはぼくだ。

結果として、だれも幸せにはならないのだろう。結末は、まだだれにも分からないのだけれど。


これは現在進行形で進んでゆく現実だ。

それを主観的に述べたもの。

赤錆びた鉄で出来た鋭い楔だ。

決して忘れぬために、心に刻み込むために、深く深く打ち込む錨だ。






あれは、2017年の春だった。

LINEの履歴が残っているからいつだったかは分かる。といっても、まぁ忘れもしない。そこを境に、ぼくの人生が少し変わったのだから。


4月30日の深夜だ。

ぼくと話してみたいという人がいた。とある人の紹介で、そいつはぼくをLINEの友達に追加した。


『こんばんは!』


というメッセージが送られてきたのをよく覚えている。どうでもいいようなことなのに、何故か。



それに『こんばんわ』と返した覚えもある。

何故ぼくと話したいのか訊ねてみた。『ただなんとなく』と返って来た。


それから数時間ほど、いくつか趣味について会話を交わして、もう夜も遅いから、とこちらから切り上げた。


数週間ほどして、実際に会うことになった。

待ち合わせは『とあるうるさい場所』にある椅子。

ぼくはまぁそれなりの格好をして待った。

そのうち、それらしき人影が見えたので、軽く会釈をした。会釈が返って来た。


隣を歩きながら色々と話した。

美人局だとか実は男とかそういうものではなく、普通の女の子だった。

強いて言うなら、少々二次元趣味の。


それから、これまでと少しだけ違う日々が始まった。




また数週間。

その女の子は苦しんでいた。

まぁ、人間関係で色々とあったのだ。

俺は耳を傾けて、助けになれるよう努力をしてみた。

なんとか平衡を保てるまでに回復したようだった。



嗚呼。

思い起こすだけで心が痛くなってくる。



夏祭りに誘われた。

二人きりで。

ぼくは



ぼくはあまりに若く鈍だった。


他意などないと。

馬鹿げている話だ。


電車で行った。

共に歩いた。

屋台を回って。

花火を見た。

写真を撮って。


『楽しかった』

『ありがとう』

『本当に……ありがとう』


そんな言葉をLINEで聞いて、楽しいまま帰った。



ぼくは気づいていなかったのだから仕方がない。そう言い訳をせねばこわれてしまいそうだ。

いや、そのときにはまだそうなってすらいなかったのかもしれないけれど。



秋が来た。

その子はもはや俺の日常に組み込まれていた。

認識としては『とても仲のいい友達』だった。

残酷なことだ。



冬。

寒空。

あの人が、這入ってきた。



離れるのは当たり前だ。

その子から見てぼくは自分に対して全く興味を示していないように見えていたのだから。

当たり前だ。


あの子は離れた。


冬が明けようとしていた。

唐突なカミングアウト。

ぼくはその時感情にようやく気づき、また、すでに何もかも遅すぎることにも気づいた。



ぼくはある種のコンプレックスを死ぬまで抱えることとなった。

これは代償だろうか。

きっとそうだろう。


そうしてぼくは今こうして独り佇んでいるのだ。

ぼくの一年はこのようにして糧となった。

糧というにはあまりに辛く苦く酸いが。



赤黒い錆びが僕の心をだんだんと満たしてゆく。

歪んで、毀れて、変形してゆく。

あの子は『だれも幸せに出来なかった』と言ったらしい。



その通りだよ。

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