β





「一生整数論のことを考えて生きていこうと思ってたのにな」

 もな美が云った。私はわらった。

「そういうこと、私もいっぺん云ってみたいよ」

 遠過ぎる。あまりに遠過ぎる。そして私も、もな美も天才ではなかった。私たちは只の学部生で、もしも修士に進んだとしても、ふたりとも何某かの仕事に就いて人生の生計を立てるのだろう。


 神経衰弱ってわかる、

 トランプの?

 なんだろう。



 ふと不安になって云った。

「もな美、死ぬなよ」

「人間は全員いつか死ぬよ。私も人間だし」

「すぐには死ぬなよ」


「……わかってるよ」





(了)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「素数に恋して」 泉由良 @yuraly

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説