響怖
ロビーを突っ切って会場のドアの前に行くと、そこには立派なドレスコードに身を包んだトドの様な体系と、トドの様なひげを生やした口元へ向けて象牙色から赤黒い色のグラデーションになっている円い仮面を付けた中年の禿げた男性と、綺麗な紅のドレスを身に纏ったワインレッドの波打つ髪が美しい、ダイエットをし過ぎたように痩せた金の猫の仮面の中年の女性が仲良さげに喋っていた。夫婦だろうか。
「今日はどんなのが出てくるだろうね。欲しいのがあったら私に言いなさい。絶対に買ってあげるから。」
「あら、頼もしいわね。ならば今夜は頼らせていただくわ。」
女性の声は如何にも普通の金持ちの小母さまらしい低めの声で、若干ビブラートが聞いていた。
ただ、なんともない会話を不思議に感じさせているのは男性の声で、深海の奥から沈没船が軋む音が響いてきたかのような、少し曇った、しかしはっきりと響いてくる、形容しがたい恐怖を感じさせる若干の恐ろしさを纏った声をしていた。余り長い間聞いていたくない。と、そう思った時、会場のドアが開いた。
「みなさん、御待たせ致しました。オークションを始めます。会場へお入りください。」
一番前にいた私は出来るだけ早く、あの夫婦から離れるように早歩きで一番前の席に向かった。そこは商品を一番近くで、よく見る事が出来る為、一番人気の席だ。
沢山の人が仮面の奥で笑いながら今日の品の期待や予想、はたまた世間話に花を咲かせながら各々目的の席へ向かって行った。あの夫婦は、私の真正面に座っていた。
それから約五分経ち、明りがステージを照らすスポットライトのみとなった。その明りは暫くすると、ステージの中央の位置に集められた。すると、光に照らされて円形に切り取られた床は少し下がり、真っ二つになり、左右に吸い込まれて穴があいた。するとその奥から歯車が回るようなカチカチという音と何か重いものがゆっくりと上がってくるゴゴゴという音が聞こえた。よく目を凝らすと、上がってくる人影が三つあった。しかし、そのどれもが全く動かなかった。そしてそのうちの一つは見覚えがあった。
「そんな……嘘でしょ……」
蠱意と毒 夢咲 零於 @Leo_4b
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。蠱意と毒の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
黄本――散文眼鏡柄/夢咲 零於
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 3話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます