第4話 サーニの苦悶

サーニはこの話を書いて思った。

おれは、この砂粒で、宇宙全体のことを書いてしまったのか?このたった数十万粒、数百年を持って書いただけのことで、なぜ宇宙全体を語れるのだ?いや、語れるわけがない。何かを削ぎ落としているから、この祭壇の砂粒がこの話を書いているのだ。そうだ、すべてを書こうとさえしなければ、いくらでも語れるはずではないか。

実際、十種類百文字あれば、宇宙に詰まった砂すべてに名前をつけることができてさらに余るのだ。


全てに名前を付けるというのは組み合わせのことだ。つまり、100種類の文字が100個あるのなら、100^100=100000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000

すなわち10^200個のものに名前を付けられる。逆に言うなら、100種類の文字が100個あるような本すべてを記すためには、10^200冊の本が必要なわけだ。おれは、幸運にも永遠の時と、永遠の砂を与えられているのだから、この本の執筆作業に取り掛かるというのもよいのではないか?


しかし実際には、そのたいていの本は、何の役にも、何の興味もひかないだろう。いや、この中に一冊だって興味を引くものはあるのか?なぜなら、そこにはなんの創作意図も含んでないただの文字列ということには一切かわりないのだから。


だからこそ、すべてを記すということに意味はないのだ。


興味深いものだけを記したい。そうだ、宇宙に砂を詰めて、その砂それぞれにすべて名前を付けられなくてもいい。量だけが記されていればそれでいいのだ。実際に、485739482730591380013049834571872878123002398734813847239580598409748732839494番目という名前が付いた砂に何の意味があろう?

最後の番号が付いた砂だけで十分ではないか。

そうしよう。


おれは、もっと大きい宇宙に砂よりもはるかに面白いものを詰めることにしようじゃないか。ただの組み合わせを超えた、おれの宇宙に、おれの発想を詰めるのだ。


そうだ、こんな伝説があったな・・・

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