第2話 数を足す者
「今から君たちには、計算の試験をしてもらいます。といってもやることは単純。1から100までをすべて足しなさい」
バタン!その場で石版を置いた生徒がいた。教師はそれを見て顔をしかめた。
(さては、計算するのが面倒になったのだな。これはあとで叱ってやらなければ)
しかし、教師はこの生徒の石版をみて驚愕の声をあげた。生徒の石版には、5050と大きく書かれていたのである。
「これはどうやったんだね。説明しなさい」
「あっという間の計算です」
その生徒は、大黒板の前に立って、次のように書いた。
1 + 2 + 3 + 4 + ...+100
100+99+98+97+...+1
--------------------------------------
101+101+101+...+101
「下には101が100個あります。だから、合計は10100です。実際には、これは2回足したことになるので、その半分の5050が答えです」
意図していない解法に教師は更に驚愕した。
「この子にみんなで拍手を贈ろう」
「先生、それは早合点です」
こうして、遮ったのがルドルフである。
「早合点とはどういうことだ?お前はこの解法を思いつけたのか?嫉妬も大概にしろ」
「私はこのあっという間の計算よりも深い性質を随所に見出したのです。それは、この解法なんかよりも、もっともっと深いものです」
彼は自身の石版を見せた。右下に5050と書かれていた。それは、地道な計算であった。
1
3
6
10
15
21
28
36
45
55
66
78
91
105
120
136
153
171
190
210
...
「始めの20項を見るだけでもどんなに楽しいことでしょう?1の位の対称形、数の増えるスピードの移り変わり。そして美しい数たち。ここに出てくる数が、単純な割り算のうちにあるということにも気づいたのです。先生これは面白いと思いませんか?」
ルドルフは黒板に次のように書いた
1÷0.999=0.001 001 001 001...
1÷0.999÷0.999=0.001 002 003 004 005...
1÷0.999÷0.999÷0.999=0.001 003 006 010 015...
「そうすれば自然に次のように計算したくなるでしょう?」
1÷0.999÷0.999÷0.999÷0.999=0.001 004 010 020 035...
「彼にこの構造が見えるでしょうか?単純な割り算のうちに、これらの数列が姿を表すこととの関連性に思い至っていたのでしょうか?
それから、1,3,6,10,...,5050までの合計が彼に一瞬で計算できるでしょうか?100×(100+1)×(100+2)÷6=171700という美しい式にまで考えを馳せたのでしょうか?さらに、次のような法則に気付けたでしょうか?」
定数列(0番数列)
1,1,1,1,1,1,...
第n項=1
自然数列(1番数列)
1,2,3,4,5,6,...
第n項=n
三角数列(2番数列)
1,3,6,10,15,21,...
第n項=n(n+1)/2
三角数列のn項までの総和(3番数列)
1,4,10,20,35,56,...
第n項=n(n+1)(n+2)/6
上の数列のn項までの総和(4番数列)
1,5,15,35,70,126,...
第n項=n(n+1)(n+2)(n+3)/24
m番数列
第n項= (Π[k=0→m-1](n+k)) / m!
= (m+n-1)! / (n-1)!m!
「彼に100番数列の100項めが計算できますか?
45274257328051640582702088538742081937252294837706668420660
であると一瞬で計算できたのでしょうか?そこまで考えが馳せられないのに石板を伏せるとは拍手を贈るに値しません。これだけにとどまらず、1から100まで足すという作業のうちに見出せる興味深い考えはいくらでもあるはずです。実際に1から100まで足してみなければ気づけないということもあるはずなのです」
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