第5話 エピローグ
「本当に久しぶりね。大きくなったわ。もう立派な大人ね」
「アリスさんの言ってたことは全部正しかったのかもね。あれが僕たちにとっての神様だという所も全部含めて」
タイタニア平原に出現した無数の巨人の噂はあっと言う間に世界を駆け巡った。タイタニア平原で歩行を止めないタクエスの巨人を操る事はすでに不可能であるとオレガノーラ王国魔術研究所長のアリス=ヴィクトリアが証明している。すでに「タイタンの手綱」に魔道具としての効力はなく、タクエスの巨人の前にそれを持って立っても敵と認識されるだけであるという実体験を発表したのだ。
その「タイタンの手綱」は世間的にはオレガノーラ王国で保管されているという。
ジルはオレガノーラ王国まで旅をしていた。表向きはクレアニア王国の使者であるアギュレイが神様の邪魔をして護衛16名とともに死んでしまったという報告をクレアニア王国に伝えるという役目の一人であったのだが、クレアニア王国まできたジルの父親はジルにこのままオレガノーラ王国まで行ってこいと言ったのである。見分を広めるという意味もあり、この騒動の幕引きをしてこいという意味もあったのだろう。ジルは一人で南へと向かった。
明らかに北の少数民族であるジルがアリスを訪ねてきたと言った時に、魔術研究所の門番は追い返そうとした。アリスにジルという名を言えば分かるといったところ、本当にアリスが出てきたために門番は驚きを隠せなかった。それほどにアリスはオレガノーラ王国ではなくてはならない存在とまでなっていたのだ。
この国は戦争が続いていると言う。
「7年前もどこかと戦争をしていたよね」
「そうなのよ、その次は4年前からクレアニア王国とよ。本当に嫌になるわ」
だが、休戦協定が結ばれる予定なのだという。お互いに疲弊していて戦争どころではないのだとか。
「僕には分からないよ。……いや、分かるかもしれない」
必要な事とは言え人を射抜いた感触はジルの手に残っていた。戦争をする人たちも同じ思いの人がいるに違いない。
「タイタニア族と戦争しようなんて国はないわよ」
アリスは笑った。
「その方がいいよ」
ジルも笑った。
「今度またタイタニア平原へ行っていいかしら。今は無数の神様が横たわっているんでしょう?」
「そうなんだよ、もう平原なんて言えない状態だよ」
一人だけ歩いている神様は他の神様の上を歩こうとはしなかった。だからタイタニア族は横になっている神様の近くにテントを張ることにした。土埃で放牧に使う草が少なくなったけれども季節が良かったのかすぐにそれは増えだした。今では神様の上に生えてくる不届きな草まである始末である。
もう昔のタイタニア平原に戻ることはないとジルは思う。それでもタイタニア族はそこで暮らし続ける。
神様を神様と思って敬いながら生きていくのだ。
だけど、とジルは思う。
「ぜひともタイタニア平原に来てよ。今度来た時には神様の上に乗せてあげる。眺めがいいんだ」
ジルは首飾りを持って、プラプラと振った。
もうあの巨人を神様と思う事はないのだろうな、と。
巨人の庭 本田紬 @tsumugi-honda
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