魔法のある世界。
一見すると万能のようにもみえる回復魔法だったが、実はこれまで病に関しては無力だった。
主人公には外科医だった前世の記憶がある。回復魔法を使う治癒師しかいない世界で、初めての医師として人々を救いたい。医療機器など何もない世界で少しずつ環境を整え、薬を開発していく。
自分の力の及ぶ限り誠実に患者と向き合う主人公の活躍を、時にはワクワクしながら、時にはもどかしい思いを抱きながら読み進めました。
かなり本格的な医療現場の描写ですが、異世界らしさもじゅうぶん。
最後まで主人公の手術を手に汗握って応援しました。
完結おめでとうございます。
医療系小説というのは大抵しんどい。というのが、わたしの勝手なイメージでありました。読む前には「読むぞ!」という掛け声が必要なほどです。※注:掛け声は比喩
病気や怪我、痛み、体の不都合などなど。
現実にもある辛いアレコレを微に入り細を穿つという内容は、正直しんどい。
しかし、そのしんどさが、このお話にはほとんど感じられないのです。
何故か。
主人公シュージが真面目に医療へ取り組んでいる姿もさることながら、いろいろな人と関わってよりよくしようと頑張っているから。
では、ファンタジーと融合する意味は?
あるんです。ファンタジーだからこその理由が。
そう、魔法です。
魔法なんて夢のような話です。でも夢を見てもいい。ファンタジーってそういうことだから。そこに救いがある。しんどさが軽減されるのです。
もちろん、病気の話題が多いですから読んでいて辛い部分はあります。だからこそだと愚考しますが、文章はサラリと綴られており、読みやすい。
たとえば、上手くいった手術の後、人間同士が織りなす描写は少なめです。
物語としてはいいところです。手術は完璧だった、やったー!となる部分です。しかし、このお話はサラリと終わってます。でも、そこがいい。
この小説は余韻を楽しむのだと思います。勝手に想像して「なるほど」と納得する。すると次の話で、患者の情報がサラリと語られる。ああ、大丈夫だったんだなと思わず顔が綻ぶわけです。
そうして少しずつキャラの情報が増えていく。その流れがとても気持ち良く描かれており、読んでいて楽しいです。
医療系にありがちな難しい文字の羅列はありますが、読者に分かりやすく噛み砕いている。そういうところも有り難い。
一つの事件が数話で終わるのもサラリと読めていい。ぜひ、読みやすい医療系+ファンタジー小説をどうぞご覧ください。