焼いちまった2


「あのコンビニは何なんだよ」

「知りたけりゃ、まずは奴らを倒して」

「ん?」

「始まるよ、おっさん!」

「おっさんじゃねえよ!!」



 美女だからっておっさんなんて呼ばせない。まだ30代だぞ!!

 名前を聞いておきながら、おっさんだと? ますます腹立ってきた。


 と、何やら手元が熱い。



「なんだこりゃ!!」



 火もないのにあきらかに中華鍋が熱せられている。今にも煙を吹き出しそうだ。



「うおお、何か草の中にいる!!」



 今度は何か得体のしれないものが俺の足を撫でる。舐める。甘噛みする。キモい!!



「サエさん!?」

「情けない声出してないで、コイツらを倒しちゃってよ」

「何だよ、コイツらってのは!!」

「スライム」

「んあ!?」

「だから、スライムだってば!!」



 するとサエさんに飛びかかる例の物体。スライムという名のそれ。



「……ウザ」



 今、サエさんの本性を見た気がする。

 鞭を振り回す彼女は例えるなら旋風。スカートが捲りあがってセクシーすぎる。



「あんたも何とかしなよ!」



 そう言うけどな、サエさん。俺はまだ理解出来てないわけだ。

 知らぬ平原で、さっき会ったばかりのセクシー女と、スライムとかいうものを攻撃。


 はちゃめちゃすぎるだろ!!


 しかし、足元に這い寄るこいつらはキモい。攻撃することには賛成だ。


 中華鍋か。殴ってみる、か?

 あれ、さっきの熱いのがなくなったぞ。



「燃えろー、燃えろー」



 中華鍋を振り下ろしてみる。潰れたぞ。いや、元に戻った……。



「つ、使えねえ」



 仕方なくお玉を振り下ろしてみるが、結果は同じだ。これ、役に立たねえ。もうサエさんにお任せするしか……。



「ん?」



 なんか、さっきから草だと思っていたものが全部スライムっぽいんだが?



「ごめんなさーい。鞭で叩き切ったら、スライム増えちゃった」

「ぬあ!?」



 分裂して増加だと!?


 サエさん、あんたベテランなんだろ。何もかも知ってるんだろ! 何で鞭振り回してスライム増やしてんだよ!! こいつらキモいんだよ!!



「鞭ってスライムとは相性悪いんだよねぇ。知ってたけどここまでとは、笑っちゃう」



 笑えねえよ! どうでもいいから倒せる武器にしろよ!!



「あ、熱い」



 中華鍋が熱さを増した。そうか、怒りか。怒りでこの鍋は熱くなるんだな!?



「え、どうする……」



 俺は恐る恐るお玉でスライムを掬い上げる。

 そいつが今まさに俺に攻撃してこようとしたから、中華鍋につっこんでみる。



「う……」



 一瞬、泡のようにグツグツ音を立てるも、煙と共に激しい悪臭を放ちながら溶けた。



「うおおおお、倒せたけどキモい。臭い!! マジ中華鍋使えねえ!!」

「おっさん、うるさい!!」



 この臭いは表現しようがない。

 公衆トイレなんて生易しいぞ。腐った魚? 放置した肉? 生ゴミなんてものじゃない。


 毒だ。これ、絶対に毒だって!!



「サエさん、助け――」



 サエさん。あんた今、良いもの見つけたって顔したよな? ものすごくニヤついてる。

 悪女だ。悪い予感しかしねえ!!



「やられたくなかったら、しっかりその鍋でキャッチしなよ!」

「何をするつもりだよ!!」



 サエさんは自分の身体のように鞭を扱い、綺麗にスライムを投げてくる。


 べちゃべちゃと、中華鍋に吸い込まれていくそれ。溶けていく……臭い……苦しい。



「限界、なんですけど」



 俺は思った。

 中華鍋を振るなら、やっぱり炒飯。青椒肉絲でもいい。酢豚でもいい。とにかく、食えるもんを炒めたい。心から願った。



「さあさあ、火力アップして。全部やっちまいな!!」

「おい! サエさん!! あんたどんどん離れていって――」

「くっさ……」

「俺は臭くない! 傷つくから言うなよ!! 臭いのはアイツらだ!!」



 中華鍋は赤くなるほどに熱を持つ。

 スライムは一瞬にして蒸発していく。その代わり、辺りは悪臭が立ちこめる結果となった。



「くせぇぇぇぇ!!」



 遠慮なく投げ込まれるスライムを俺は焼いていく。緑色の臭気に、俺は閉じ込められた……。


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