恋しちまった2


――――



 俺はいつものように中華料理店を出る。

 その日は早くに仕事が終わり、そこそこ時間があった。


 この間、店主に謝罪をして、怪我を負わせた客にも改めて謝罪をしに行った。

 こっぴどく叱られたが、また働かせてもらえることになった。

 客の方も最初は受け入れてもらえなかったが、3回目にして漸く話を聞いてもらえた。


 挫折しかけたが、やっとの思いでまたやり直すことが出来ていた。この調子でいけば、車のローンも何とかなりそうだ。


 そして今日もコンビニ弁当。

 中華料理店で働けるんだから自炊をしろと友達には言われるが、料理人はオフになると調理器具を持ちたくないんだ! わかれよ、この気持ちを!!



「ただいま!!」



 俺は自動ドアが開く前に、そう言葉をかけた。


 相変わらず、そこには睨んでくるヤンキー2人。そしてあきれ顔の女。



「あんたさ、ここは家じゃないんだから。その挨拶はどうなの?」

「まあ、いいだろ」



 俺は仕事をしている。それなりに給料も貰えている。挫折しかけたが、上手くやっている。ここに来る理由は何もない。


 ただ、恋をしただけだ。



「で? 今日はガチャる? また別のクエスト行く?」



 鞭を片手に、サエさんは不敵に笑う。



「まず飯を食わせてくれ」

「何よ、他のコンビニ寄ってきたの?」

「ここ弁当売ってないし」

「裏切り者!」



 いやいや、だから腹が減ってるんだ。クエストどころじゃない。



「そういえばさ、何で戻ってきたのよ」

「何が?」

「仕事も復帰して、お金も稼げてるんでしょ? こんなところにいたら、人間ダメになるわよ」



 厳しいクエストで金を稼げて命も保証される。まともに働こうなんて思わなくなるかもな。



「まあ、人それぞれじゃないか?」

「つまんない答え」

「なんだよ、それ」

「で? クエストどこに行く?」

「おい、聞いてなかったのか。俺は腹が減ってるんだ!」



 背後でカプセルが落ちる音がする。

 そこにいたヤンキー1人は俺の財布を持ち、もう1人はガチャカプセルを持ち、サエさんの手にはいつの間にか札がある。



「お前ら、何なんだよ!」

「一緒にクエスト行こ!!」

「無理やりしないんじゃなかったのかよ!!」

「ごめんね」



 ウィンクされても納得いかん!


 つーか、ヤンキーとサエさんの関係って何なんだよ。お前ら無口すぎて怖いんだよ!



「はい。これ武器……フライパン?」

「中華鍋だ!!」



 俺はコンビニに通っている。

 毎日、毎日、飽きるくらい行っては彼女と話をする。


 はっきり言って2人で初めて行ったあのクエストは楽しかった。臭かったけれど。


 落ち込んでいた気持ちが晴れたのは、あのクエストのおかげだ。臭かったけれど。


 セクシーな美女に出会えたことも、嬉しい思い出だ。臭くて近寄ってもらえなかったけれど。



「好きだ」

「え?」

「その……サエさんと行くクエスト!」

「あたしも好きよ」



 ヤバいな。今日の彼女もセクシーだ。


 俺はつくづく思う。

 こんなふうに振り回されて、男ってのは本当に馬鹿だ。




 END


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ガチャっとクエスト 和瀬きの @kino-kinoko

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