焼いちまった1


   *



 気づいたら俺の財布は空だ。飯も買えない。


 そしてなぜ、中華鍋とお玉を持っているんだ。スーツ姿のおっさんが、中華鍋を抱えて平原に立つ。ツッコミどころ満載じゃないか。



「今回はあたしがサポートするし、死ぬことないから安心しな。んで、平原だから大した奴は出てこない」



 おい、女。少し待ってくれるか。今、頭の中を整理するから。


 まず、俺は仕事を辞めた。皮肉にも中華料理店だ。


 毎日、鍋を振っていたが、ちょっとしたトラブルで今日は謝罪に行ってきた。そのため慣れないスーツ姿だったわけだ。

 しかし謝罪は上手く行かず、料理長はお前のせいだと俺を責めた。


 精一杯やった。土下座までしたんだ。

 火傷させた責任は俺にあると思うが、そもそもあいつの子供が飛び込んできたから汁をこぼしたんだ。


 腹が立って辞めてしまった。


 もう少しで自分の店を持てたかもしれないのに、馬鹿だとは思うが耐えられなかった。


 そして職探しだの、夕飯だので、コンビニを探してここに辿り着いた。


 わけのわからない女とヤンキー2人に出会い、財布を抜かれた。



『ガチャっときましたよ、姐さん』



 ヤンキーの1人が勝手にガチャ用コインと3千円を変えていた。

 勝手にガチャって、カプセルを渡された瞬間にここに居たわけだ。


 意味がわからねえ!!


 今、俺はどこにいるんだよ。こんな大平原、日本にあるのか!?

 その前に住宅が密集した場所にいたはずだ。コンビニにいたはずだ。



「ところであんた、名前は?」

「カイ……」

「あたしはサエ」



 もう、名前なんてどうでもいい。


 ところでサエさん。

 あんた、そのはち切れそうなボディにその服は色々とそそられる。


 黒のロングスカートに、深いスリットまで入って美脚が丸見えだ。その格好で鞭はいかん。似合いすぎだろ。


 混乱しすぎて、そこにしか目がいかない。


 ウェストの細さも、張りのある尻ももちろん魅力的だ。しかし、ナイスなバストにストレートロングの髪がかかり、おまけに構えた鞭が男心をくすぐる。


 考えがまとまらん!


 俺の脳内は今、あんたのナイスバディを記録することを優先として働いている。

 よろしくない。

 だが、全てを記憶にとどめておきたい! それが男ってもんだろ!!



「あのガチャはね、バトルエリアの選択になってるの。厳しいエリアだったり、ここみたいな簡単なエリアだったりするのよ」



 もう、頭に入っていかない。勝手に説明してくれ。

 というか、俺の金を返してくれ。ここから帰りたい。夢ならいますぐに覚めてくれ……。



「初心者は一緒に武器が出てくるのよ。お得でしょ? しかも一番馴染みの武器が出てくる」

「はぁ」



 武器、武器言うけど。俺が今持ってるのは中華鍋だぞ。

 馴染みってのは長年使ってきたものだしわかるが、どう見ても武器じゃねえ。



「しかも初めてのガチャだと、簡単エリアが出てくる仕組み。次からは気をつけて! 厳しいエリア出てくるかもだから。って訳で、カウンターに来てくれたら自由にエリア選べるから活用してね。まあ、保証とか問題あるけど」



 おい。俺はまだ契約内容も知らないし、今から何をするかも聞いてない。


 そういえば、危険だけど手っ取り早く稼げると言っていたな。それに俺は強制的に契約させられたわけか。


 今まで出会った仕事の中でも最高のブラックだな。



「ねえ、聞いてるの?」

「聞いては、いる、のか?」

「ちゃんと聞きなさいよ」



 聞けるか! 俺は今、最大級に混乱しているんだ。

 新しい情報なんざ、必要ねえ!!

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