恋しちまった1


   *



 右手にあるのはゴミ袋に詰め込まれた中華鍋。そして1万円。これが報酬だとか。

 そして左手にあるのは笑顔で渡された焼肉弁当。サエさんが手伝ってくれたお礼だって……。


 俺は振り返り、すっかり暗くなった空と明かりに包まれたコンビニを見る。改めて見ても、普通のコンビニだ。



『ここは異世界コンビニ。異世界人はモンスター退治をしてくれる人を買う。あたしたちは稼げそうなエリアを買う。両者の求めるものが一致して、報酬が生まれる。簡単に言えばそういうところよ』



 異世界だとかモンスターだとか、本当に意味がわからない。まだ夢のなかじゃないかと思うくらいだ。



『異世界では人手不足。こちらはお金が欲しい。あなただってそうでしょ? お金が欲しい。お互いにいい関係だと思わない?』



 異世界とやらがあのコンビニと繋がっているだけで恐怖だ。

 何なんだよ。何で繋がってんだよ。まともじゃないだろ!



『登録料は別として、ガチャで払ったお金は保険。命の保証はされるんだから、お得でしょ?』



 何がお得だ。俺の精神どうしてくれるんだ。

 結構怖かったし、苦しかったし、まだ体からあの臭いがするんだ。精神面のことを考えろ!



『このコンビニ、お金に困っている人は吸い込まれるように中に入ってくるの。でも、説明したら逃げるでしょ? で、おっさんには無理やりクエスト参加してもらったのよ』



 一応、無理やりだったという自覚はあったんだな。

 にしても、ひどい話だ。何の説明もなく、俺は平原に立たされていたわけだからな。



『今回はガチャの簡単クエストだったけど他にもあるのよ。でも、おっさんには関係ないかもね』



 そんなにおっさん、おっさん呼ばれるほどおっさんじゃないからな? 

 驚く話ばかりで頭が混乱して言えなかったが、訂正しろ。俺は何のために名前を教えたんだ。



『これ、契約書。もう強制はしない。こんなもの、夢で終わらせたかったらそれでいいわ。契約書を破棄すれば、このコンビニに関する記憶も消えるから』



 不可思議なものを無理やり信じ込まされているような、そんな気持ちだ。

 はっきり言って手の込んだ詐欺だと半分思っていた。しかし、それでは片付けられない。


 目の前にある報酬1万円。

 俺が使った中華鍋。

 振り回し過ぎて痛い手首。

 1部緑色に染まったワイシャツ。

 何よりもこの臭いが現実であると物語る。



『カイさん。あなたはまともに生きた方がいいわ。あなたはまだ、やり直せる。でしょ?』



 サエさんは狡い。ずっとおっさんだとか言っておいて、いきなり名前を呼ぶんだ。

 投げやりになっていた俺を救ったのはサエさんなんだ。恩返しがしたいって思うだろう。



『でもさ、一緒に戦ってくれたら嬉しいな』



 ふざけるな!

 あんな経験、二度とごめんだ。

 稼げるとかいってたった1万円。しかも先に5千円払ってるんだぞ。返せ!



「じゃあな、サエさん」



 俺はコンビニを後にする。

 もう、関わることはないだろう……。

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