残酷と醜悪の中の美を描き出す、強烈な短編

落ちぶれた中学時代のいじめっ子を、順風満帆の人生を送る今、あざ笑いに行く。
あらすじにするとそれだけの話だが、それを描き出す筆致に凄まじい情念がこもっている作品です。一言一句、読むこと自体が焼き付くような読書体験を残す。カクヨム公式レビューの紹介から気になって来たのですが、読んで良かった!

どういう人間が加工されてしまうのか少し気になりましたが(転落した、というのも一口に言って広いので)、そこは語られなくても物語としてまるで問題がない。逆に言えば、人が人でなくされてしまう社会がこの世界の人に受け容れられているということで、ゾッとする感触が多段重ねになって読み取れます。

ポリティカル・コレクトネスという考えが広まり、少しずつ人に優しくしようという心がけが広がる(広がろうとする)昨今ですが、いじめっ子だった「あの子」の描写は、「ああ、話しても無駄なのだな」とという断絶を感じる存在で、リアルさと非現実さの両方が合わさって感じられました。

人間の醜悪な部分をどろどろとえぐり出し、それを肯定するようなディストピアな世界が背景に広がる。しかし、それでいて描き出されるのは、毒のように人を蝕む「美」であると感じました。美しさは良いもののように語られるけれど、それは時として脅威であり、暴力である、と。

大変楽しませていただきました。ありがとうございます。

余談:似たようなあらすじの話がカクヨムにあったな……と思ったら「アゲイン 高校の同級生が、ペットショップで売られていました。」の作者さんだったのですね。もしかすると世界観がつながっているのでしょうか。興味深いことです。

その他のおすすめレビュー

雨藤フラシさんの他のおすすめレビュー1,207