第4話 初バトルは魔王
「ハルト!!」
彼女が俺に覆いかぶさるように倒れ込んできた。
男の腕が髪の毛をかすめ、猛スピードで振り抜かれる。
「助かった」と思ったのも束の間、男は倒れ込む彼女の頭を無造作に掴んで宙に振り上げ、そのまま反対方向の地面に叩きつけた。
「お姉さん!!」
男は一瞬だけ俺に目を向けたが、すぐに視線を動かした。
衝撃で小さく呻いている彼女を見下ろすと、小首を傾げ不思議そうに問いかける。
「なぜ時間を止めない?どうしてそんなに弱っている……。
いや……
そもそもなぜお前がここにいる?人神の封印はどうした!
答えろ!」
さっきと同じ質問だ。
こいつ……彼女の知り合い?
俺はともかく、彼女を殺す気はない……のか?
「久しぶりの再会だっていうのに……
ずいぶんじゃないか、ギルク……」
「どうでもいい、質問に答えろ!」
男は起きあがろうとした彼女の胸ぐらを乱暴に掴み、無理やりに立たせた。
「
……ボクの力ではもう戻せない。
じきに人神は復活する」
「……!?解れた!?ふざけるな!!
そうならないために、お前が残ったんじゃないのか!!」
「そうだけど……、力不足だったかな。……ごめん」
彼女は力無く呟くと、男から目線をそらしてうなだれた。
強く握られた両方のこぶしが震えているのがわかる。
人神の封印……?
なんで彼女がここにいるか……?
俺の脳裏に、あるイメージが浮かび上がった。
青白く光る魔法陣。
その中央で大剣を突き立てられて眠る少年……。
この2人は、あの不思議な空間の話をしているんじゃないだろうか。
だとしたら、封印が解れたっていうのは彼女があの空間からこっちに転移しちゃったからで……
その原因ってもしかして……
うん、もしかしなくても。
俺は、彼女から奪ったまま抱えていた杖をそっと見た。
「力不足だと……?……ごめん、だと……?
……そんな言葉で済むか……
人神がまた現れれば、今度こそ俺たちは人間に」
男は憎々しげに彼女を睨みつけ、そこで言葉を切った。
ふと何かに気付いたように、彼女から視線を外す。
「そうだ……あの時現れた光は2つ……
お前と……もう1つはあの人間か。
あの杖、服装……。
ハルト、と呼ばれていたか……
………そうか!あのハルトか」
どのハルトだろう。
これはちょっとわからない。
だがこの男の中では話がつながったようだ。
「……なるほど。
封印が解れたのはこいつのせいか」
男の射抜くような視線がこちらに向いた。
……ごめんなさい。違うんです。
ちょっと言い訳する時間をください。
---------
「違う!ギルク!!
ハルトは一切関係無い!!」
彼女の叫びに、男は全く耳を貸そうとしなかった。
「この状況で関係無いはずがあるか。
あぁ……もう話すのも面倒だ」
吐き捨てるように呟くと、男は龍の腕を振り上げ彼女に向けて薙ぎ払った。
……唐突過ぎて意味がわからなかった。
スローモーションにでもなったように、彼女が胸から光る粒子を吹き出して倒れていくのが見えた。
「お姉さん!!?」
せめて駆けよって抱きとめようとした瞬間、頭上で声がした。
「ハルト。お前も死ぬか?」
急に腹にものすごい衝撃が来て、吹っ飛ばされた。
蹴られたと気付いた時には何かに背中からぶつかって、一瞬意識が飛んだ。
頭が痛い。
吐き気がする。
全身が痛い……
でも、そんなことより……
お姉さんを助けないと……
「この状況でこいつの心配か」
何がおかしかったのか……
男はさも愉快そうに笑い、彼女の首に手をかけて持ち上げた。
「……ギ、ルク……何、の、つもり……」
彼女が苦しそうに身をよじらせる。
首を絞められているのに両方の手は力無く下がったままだ。
動かす力も残っていないのかもしれない。
「腐ってもこいつは神だ。そう簡単に死なないが……
そうだ、首でも取ってみようか」
あぁ……こいつ魔王だっけ。
さすが頭がおかしいや。
……彼女が死ななきゃいけない理由なんかどこにも無いだろ……。
「ほら、良いのか?
頭が無くなれば、神といえども生きていられないぞ」
ゴキィッと鈍い音がして彼女の頭からも光る粒子が放出された。
悲痛な叫び声が森に響く。
何とかしなきゃ……
何とか……何とか……
お姉さんを……
「お姉さんを、放せぇっ!!」
俺は杖を握りしめて走り、男へと力いっぱい振りおろした。
今度こそ殺されるかもしれないと死を覚悟したせいで、アドレナリンが全開になったのか、もしくは火事場の馬鹿力というやつなのか。
俺に対処しようとする男の動きが、今までより遅くなって見える。
眼の端に移る周囲の景色は動きを止めていたし、音も聞こえない。
その不思議な感覚は、病院で俺以外のものが動きを止めた時とよく似ていた。
更に振り下ろされた杖は、軌道上の空間を大きく歪ませながら進む。
男は目を見開いてしばらく動きを止めていたが、直前にバックステップで杖をかわし、着地と同時に回し蹴りを放ってきた。
やっぱり動きが遅い。これなら対処可能だ。
俺は杖を横に構えて、男の蹴りを受け止めた。
「……あ」
男が呟いたのが聞こえた。
その瞬間、杖が体にめり込んだ。
杖を支えていたはずの腕は衝撃に耐えられずにバラバラに砕け、俺は樹を何本もぶち破って吹っ飛んだ。
「マズいな、……死んだか?」
「うあぁああ!ハルトーー!!」
お姉さんの思ったよりも元気そうな声が聞けて少し安心した所で、意識が完全に落ちた。
アナザータイム -未来の黄昏ー ももすけ @momosuce
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。アナザータイム -未来の黄昏ーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます