第6話

「この森には定番なエルフの村と獣人の村があるんだな」


目に魔力を纏い、数千キロ先を視る。

木々を透かして、遠く。

魔物や獣を追い越して、望遠鏡のように、近くにハッキリと膜のような結界の中、動くものたちが視えた。



「そのようですね。精霊樹ドライアドの加護を受けて隠蔽と幻惑の結界が村を護っているようです。

違法な奴隷商人から襲撃されないようにでしょうが。

人族の冒険者たちと遭遇しないよう、木々の上を移動手段にとっていますね」




「ああ。もっと森の奥に村を作ればいいのに、そうできないのは、加護を上回る強い魔物が奥にはわんさかいるからだろうな」



「主はお嫌いでしたね」


何が、なんて言わないが言いたいことはわかる。




「風呂もない、たまの水浴びだけ。

歯も磨かない。手も洗わない。

マジで不衛生だからな。この世界。

アフリカの先住民を思い出すよ。

ハエがブンブン飛んでる中で気にせず手で捏ねたものを、みんなで手掴みで飯食ってるのをテレビ画面越しに観ててさ。

うわぁって、のんびり思って。他人事で。


彼らはそれが産まれた時から当たり前で。

俺はたまたま産まれた場所が恵まれた清潔で綺麗な日本だっただけ。

もしかしたら俺だってアフリカに産まれてたかもしれない。

スラムで孤児だったかもしれない。

どれだけ日本に産まれたってだけでそれが奇跡なのかとか、恵まれてるかとか、画面を挟んであちらとこちら、感じてても上っ面で現実味がまったくなかったんだ。

だけど今はさ、大自然が密接に俺の生活に食い込んでるし、実際体験することになったから拒否感が酷くて、ノミとかダニとか、虫とか虫とかマジ虫とか無理。

何度でも言っちまうくらいマジ勘弁。

こうしてチートな魔法が無条件で自由に使えるし、虫避けの魔法使ってなきゃ、森ん中生活してくの無理だったし、苦痛で楽しめてなかったよな。

獣人だってさ、森の中に住んでるからだけじゃなく、この世界の人も街だって俺基準で不衛生だろうし。

獣人も体毛の中、すごいことになってそうだし。

ラノベでよくあるモフモフってだけで大喜びで無邪気に抱きつくなんて芸当、俺からしたらありえないし。

顔とか埋もれてグリグリしてさ、くんかくんか匂い嗅ぐとか、どんだけだよ。引くっつーの。

現代人にはマジでツラい」


だから恋愛なんて尚更気軽に出来るか!!

キスしたくねぇ!されたくもねぇ!

精神的に男よりになりつつあるけど、無理!


服だって庶民は誰かが着回した古着が主流だし、継ぎ接ぎが多い。

それに食器は石鹸代りに灰を使うし、藁みたいなのを束ねてまとめたタワシみたいなやつで木皿とか鍋とか洗ってるんだよ。

それで汚れはちゃんと落ちるのか疑問だ。



「それ以前に主は街に行く気がないでしょう」


「・・・・・・」


「コミュニケーションとるつもり、ないでしょう」


「さ~てと。喋ってないで手を動かせ。足を動かせ~」


藪を掻き分け、森の奥に向けて行く。


背後でヴァルスの圧し殺した笑いが伝わってくる。




(いつかは行くっつーの)



葉を揉んで患部に当ててちょっとした切傷の傷薬にもなり、葉と茎と根を細かく刻んですり鉢ですりおろし、水、又は魔力をこめた魔水と混ぜてこして濃度を高め、飲んだり患部にかけたりと、漢方薬のようないわゆる回復薬の原材料となる薬草シプル草をカード化しながらふと思った。


あの子たちにこういったこの世界で一般的な薬の作り方や食べられる野草、食べられない野草を教えておこうかと。

一通り作れれば、いざという時に自分の身を守れるし、大人になって金を自分で稼げる。


漢方薬みたいなこの世界の薬は当然苦いのがほとんど。

苦くない、飲みやすい飲み薬が作れれば大儲け・・・は無理だな。

逆に人間の欲が危ない。

貴族や盗賊に拉致されて監禁されて延々作らされ、金儲けの種にされるのが目に見えてる。


いずれ大人になったら自立して離れるかもしれない。

俺らの庇護から離れて何かあったらたまったもんじゃない。


俺とヴァルスだけが身内用にだけ作ればいいか。

俺らなら万が一狙われても返り討ちだし。



うんうん頷き、ついでに無手での闘い方とか、弓を使った鳥の落とし方や人の倒し方、獣の倒し方、夜営のやり方、獣の血抜き、捌き方とか教えるか。



「遠距離攻撃ですと身の危険性は低いですしね。先ずはいいかと」


ヴァルスも頷いた。


ゲイルに遊びを交え早くから馴染むようにとヴァルスは木剣を与えてやってはいるが、まだ小さい体には重い。

だが振り回してれば腕力もつくだろうし、子供用の弓は弦を引く力も必要だが、獣人の子供であるゲイルなら、だいぶ元気になってきた最近なら、同年代の人間の子供よりは指の力、腕力、回復力もすぐについてくるはず。上回るはず。

これからもっと成長も早くなり、弓を引けるだろう。

基礎体力もあげていこう。




「帰ったら話してみよう。少しずつ生きてく知識を教えてやろうな」



あいつらが生き残る確率を少しでも高めてやりたい。

俺らが怪我しないように過保護に護るだけじゃああいつらがダメになる。


弱肉強食のこの世界をいつかは1人で生きてくんだ。

いずれは結婚もし、家族ができるだろう。


だから。


強い子になってほしい。

逞しく育ってほしい。




「────懐かしの某CMみたいなセリフですね、主」



「バレた」



獣人だからと、もう理不尽に搾取されることのないように。





「シャ○エッセン食いたくなった」



「はいはい」

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異なる世界の昊の下、哭きたくなるけど生きていく 天野 @amenomiwoya

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