1-X.たんじょうのひみつ


 私は作家のタイリクオオカミ。ひょんなことから、友達のアミメキリンの為に、一芝居打つことになったんだ。


 その内容とは、探偵を目指すくらいに「ギロギロ」が大好きで、いつも私の一番近くで応援してくれているキリンに、お礼として彼女を本当の探偵にするために、私を中心にわざと事件を起こして、それをキリンに解かせてやろうというものだ。私が、キリンを本当の名探偵にしてやれないかなとこぼしたら、アリツさんがそんなアイデアを出してくれたんだ。その時その場に「ギロギロ」の原稿を取りに来ていた博士とワシミミズクも、賛成してくれた。

肝心の犯人役は誰がやるのか、という話になった時、博士とワシミミズクは、私がやればいいと言った。一瞬、なんで?と思ったけど、どうも、二人が読んだことのある本の中では、オオカミと言うのは何故か悪者として出てくることが多かったらしい。まぁ、私がフレンズになったばかりの頃、博士たちから元々どんな動物だったかを聞かされた時は、確かに、オオカミってなかなか狡賢くてワルだなぁってちょっと思ったけど、私はフレンズになる前は、そんなオオカミとしての生活を何も変だと感じることもなく送っていたわけだし、何ならそれはそれで楽しかったような記憶さえ、ぼんやりとだけど、あった。悪いとか、怖いだとか、そんな風に思われるのも別に嫌いじゃないんだ。他のフレンズに怖い話をして怖がる顔を見るの、好きだし。むしろ、オオカミがオオカミでいられる理由はそういうちょっと捻くれたところにあるというか、そんな風にも思っていたし。私じゃないオオカミのフレンズがそれを聞いたら、また違った事を言うかもしれないけどね。

まぁとにかく、そういうことがあって、事件の中身を考える役割は作家なのでもちろんのこと、犯人役も私がやることになったんだ。


 事件を起こすと言っても、漫画の中でギロギロがぶつかるような物騒なものじゃあない。あくまでキリンに解かせるための事件だから、平和にやらなくっちゃいけない。

それをまず一番の条件に、私は事件のストーリーを考えることにした。そう、誰も傷つかない事件を作るんだ。アリツさんが言っていた事だけど、私が犯人と言う事は、キリンが私を犯人だと見抜けた時点で、キリンは私の事を悪い奴だと思ってショックを受けてしまうかも、ということ。確かにそうだ。私は自分が悪い奴だと思われるのは嫌いじゃないとは言ったけど、キリンは私の漫画も、その作者である私の事も好きでいてくれてるし、大事な友達だ。あの子を傷つけたくはない。けど、あの子にはしっかりと探偵気分に浸って欲しい、というか、本当の探偵になってほしい。その為には、あまりウソっぽくならないようにしなきゃいけない。

そしたら博士が、私が何か別のものになればいいという提案をしてくれた。つまり、事件を起こすのは作家のタイリクオオカミじゃなくて、別の誰かにすればいいということだ。さすが博士。自分の事を賢いというだけのことはあるなと思った。私はそのアイデアを取り入れて、タイリクオオカミとは別の「誰か」になることにしたんだ。

それから、肝心の事件の中身。誰も傷つかない、となると、やっぱり、誰かの大事な何かが盗まれる、そういう事件が良いだろうなと思った。盗まれた物は最後には必ず見つかって、元の持ち主の元に返されるからね。


 私の描く漫画には、主人公のギロギロを初めとする色んなキャラクターが出てくる。勿論、そのキャラクターは作者である私が考えている。だから、これから私がなる「犯人」というキャラクターがどんな奴か考えなきゃいけない。大事なのは、キリンに私だとバレないようにしなきゃいけないってこと。これをまずクリアしなくちゃ、と思った。でも、私は変身することはできない。満月の夜にオオカミに変身する、ヒトの姿をした恐ろしい怪物の話、なんてのは聞いたことあるけどね。とにかく、犯人である私の正体を隠すためにはどうしたらいいかってことについて、博士たちの知恵を借りたり、それについての調べ物をする為に、私は図書館に行くことにした。

隠す、と言えば、へいげんちほーにいるパンサーカメレオン。あの子って自分の姿を消せるんだ。どうやって自分の居場所がバレないようにしてるのか気になって、博士に訊いてみたんだ。そしたら、フレンズになった今はどんな仕組みかはわからないけど、カメレオンって動物は、周りの景色の色に合わせて身体の色を変えることで、他の動物から自分の居場所をわかりにくくさせて、まるで自分がそこから姿を消したかのように見せることで隠れるらしいんだ。

それを聞いて閃いた。つまり、私も、変身とまではいかなくても、自分の色を変えさえすればいい、隠せばいいんだ、ってね。そしたら、そういうのを「へんそう」と言うんだと博士は教えてくれた。普段の私が何か別のものを身に着けることで、私だとわからなくしてしまえばいいということだ。

そうとわかれば、あとは私がどんな格好をすればいいかを決めるだけだ。とりあえず、なんか、悪い奴だ、って一目でわかる感じがいいな。私は博士とワシミミズクに、なんかそんな感じの奴の絵とかが描いてある本を集めてくれるように頼んだ。二人は面倒臭がっていたけど、なんだかんだ言って引き受けてくれた。だから頼りになるんだよね。もちろん、私も一緒に探した。でも、なかなかピンとくるものが見つからなかった。博士たちは、これじゃキリがないから、もっと具体的にどんなのがいいか言え、とイライラしている。悪い奴だってわかるのもいいんだけど、カッコいいのがいいなぁ。とか、そう言いながら私は本棚の中を探し続けた。

そんな時に手に取った一冊の本。なんとなーくパラパラと捲っていたら、一枚の絵が目に留まった。黒いなんだかヒラヒラしたものを背中に着けて、杖を持って、なんか眼鏡みたいなのをつけているヒトが、月夜をバックに立っている姿の絵。

なんでかわからないんだけど、私はその絵に釘付けになった。なんていうんだろう、頭の中にビリってきた感じかな。とにかく、私はその絵をカッコいいなって思ったんだ。

ぼんやりとその絵を眺めている私を見て変に思ったのか、博士たちが私に声をかけてきた。私はその絵を二人に見せた。そしたら、二人はこの本を少し読んだことがあると言った。なんでも、この絵に描かれているヒトは凄腕の泥棒で、「かいとう」とか「かいけつ」とか呼ばれているらしく、ありとあらゆる色々な方法を駆使して、色々な物を見事に盗むんだそうだ。肝心の名前は、絵に気を取られていてよく憶えられなかったんだけど。

とにかく、その話を聞いて、私は更にビリっときた。私がやろうとしている事も、泥棒だ。そして、私は今、この絵に描かれた泥棒に釘付けになっている。何と言ったらいいのかな、運命を感じたというか。私は、この泥棒になりたい。そう思ったんだ。

博士はそれを察したのか、何やら少しの間どこかへ行ったかと思うとすぐ戻ってきて、私にある物を持ってきた。見てみると、絵の中の泥棒が着けていた眼鏡のようなものにそっくりな物を博士が持っていた。後の物は、何故か色々と物が置いてあるロッジの物置でも掻き回せば見つかるはずだと言って、私にそれを渡すや否や私を図書館から追い出した。多分、これ以上私のイメージ探しに付き合わされるのが嫌だったんだろう。でも、なんだかんだ言って手伝ってくれたことには、ちゃんと感謝しなくちゃね。


 ロッジに戻った私は、アリツさんに物置に入れてくれるように頼んだ。アリツさんは、計画の為だってわかってたから、すぐオーケーしてくれた。アリツさんは手伝おうかと言ってくれたが、私は敢えて断った。なんだか、私がどんな姿になるかを、アリツさんに内緒にしておきたくなったんだ。私がどんな姿で現れるかは、本番までのお楽しみにしておきたいと思って。アリツさんは初めは首を傾げていたけど、すぐに、私に頑張ってくださいと言ってくれた。

物置の中に入ると、私はしっかりとドアを閉めた。それから、あちこちを探し始めた。物置の中にはいろいろな棚や箱があって、その中に色々な物がごちゃごちゃと置いてあった。もうずっと使われてないのか、すっかりと埃を被ってるものもたくさんあった。私が手に取る度に凄い量の埃が舞ったりして大変だった。

そうして埃に苦しみながら探していて結構な時間が経った頃だなと言う時に、私はついに、お目当ての物を見つけ出した。私の身体の大きさに丁度合うくらいの、黒くてヒラヒラしたもの。私は早速、絵に描かれていた泥棒の姿を思い出しながら、それを身に着けた。次は杖だ。そしたら、壁際に、丁度いい具合の長さの杖が立てかけてあった。私はその杖を手に取って、それから、手に持っていた、博士にもらった眼鏡のようなものを、絵に描かれていた泥棒と同じように、左目につけた。

それから私は大きな鏡を見つけて、その前に立った。すると、鏡には、私ではない、別の誰かの姿があった。

でも、私がちょっと身体を動かすと、鏡の中の別の誰かも、一緒になって動く。間違いなく、鏡の中にいるのは、私ではないけど、私だ。私に見えないけど、私なんだ。

私はしばらく、鏡の前で色々と動いてみたりポーズをとってみたりした。手に持った杖を、鉛筆を回す時みたいにくるくると回してみたり。背中に着けたヒラヒラを、両手でつまんでパタパタと動かしてみたり。一度鏡に背を向けて、勢いよく振り返ってみたり。そしたら、背中のヒラヒラがぶわっと少し音を立てて舞ったのが見えた。私は何だかそれが気に入って、その後も何回か同じような事を繰り返した。この背中のヒラヒラが舞っている様子が、私が見た絵に似ていたから。

私は、鏡の中の今の自分の姿が凄く気に入った。すごく私が見た絵の泥棒っぽいし、カッコいい。よし、これでいこう。この姿で事件を起こして、キリンの前に現れるんだ。

よし、姿が決まったら次は名前だ。何がいいかな。博士たちが言ってた「かいけつ」って言うのは、多分その泥棒の有様を簡単に現した言葉だから、その後ろに名前が付けばいいんだ。うーん、何にしよう。かいけつオオカミ?いやダメだ、捻りがなさすぎる。かいけつタイリク……ううん、なんだか締まらない。これもダメだ。

なんかいい名前ないかなぁ。みんなが憶えやすくって、遠吠えみたいにいい響きのやつ……、いい響きの……ん?響き?遠吠え?

そうだ!これだ!


「フフフ……!私の名は……『怪傑ワオン』だ!」


気付けば私は、そんな風に叫んで、鏡の前で背中のヒラヒラを翻して、ばっちりとポーズを決めていた。いい名前が思いついたのが嬉しくって、つい、はしゃいでしまった。でも、恥ずかしいとは思わなかった。むしろ、何だか誇らしかった。やっぱり、作家として、一生懸命考えて、何かを生み出した瞬間の喜びって言うのは大きいものだね。


 私はワオンの「へんそうどうぐ」を一通り抱えて自分の部屋に駆け戻って、それから机に紙を広げて、鉛筆を手に取った。突如ロッジに姿を現す謎の大泥棒、怪傑ワオン。ワオンが、キリンを名探偵として見込んで、勝負を挑む。これだ、このストーリーで進めて行こう。

よーし、待ってろよ、キリン。キミには内緒だけど、いつも応援してくれるキミの為に、最高にワクワクするストーリーを作ってやるからね。そして、怪傑ワオンとして、キミの最高にいい顔を盗みに行ってやるぞ。覚悟しろ、名探偵。


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 タイリクオオカミが、怪傑ワオンになる、ほんの少し前のお話でした。











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けものフレンズ ~かいけつワオン、さんじょう!~ Kishi @KishiP

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