銀行野球の場外乱闘

ちびまるフォイ

監督! やっぱりやらかしましたね!!

「さぁ、はじまりました!!

 メガバンク京東銀行との銀行野球!!

 いったいどちらが勝利するのでしょうか!?」


京東銀行ナインが球場に入ると割れんばかりの拍手が響いた。

一方、対戦相手の弱小ナインはベンチで作戦会議をしていた。


「監督、今日の試合の作戦を教えてください」


「今回は京東銀行が相手だから、潤沢な資金力がある。

 下手な作戦をやったところでごり押しされて終わりだ」


「つまり……?」


「思う存分やってこい!!」


「それって何も考えてないってだけじゃ……」


頼りない監督に選手たちはげんなりし、

学生時代は帰宅部エースをはっていた作者のため

熱い野球展開にならないことも察してますます落ち込んだ。


「プレイボール!!」


始球式がデッドボールになると、試合が始まった。


「フフフ。貴様ら弱小ごときに、これが打てるかな?」


京東銀行のピッチャーが札束をバッターボックスへ投げ込んだ。

バッターは札束を手に入れると、その軍資金を使ってお金を稼ぐ。


もとの金額からどれだけ増やせたかで、出塁や得点が計算されるのが銀行野球。


「この金を……発展途上国に贈る!!」


1番バッターは手に入れたお金を途上国に出資した。


お金を手に入れ機材をそろえられた途上国は仕事が増えた。

経済が回り、もとの軍資金よりも大きな経済力へと変わった。


「ヒット!!」


審判の声で1番バッターは1塁へと移動した。


「なに……!?」


「よっしゃーー!! 幸先のいいすべりだしだ!!」


ノーヒットノーラン、完封サヨナラ勝利を考えていた京東銀行は

いきなり1番に出塁されたことに驚きを隠せなかった。


「続け続け!」


2番バッターがバッターボックスに入る。

京東銀行ピッチャーは変化球でドル札をぶん投げた。


「っしゃーー! 狙い通り!!」


2番バッターは軍資金を使って新ビジネスを始めた。

ドルだったのが幸いして、海外展開も楽に行えたのがよかった。


「ヒット!!」


これも当たり。

新ビジネスが大当たりしたことで、ふたたびランナーが塁に貯まる。


「まずい……!」


京東銀行ピッチャーは3番に札束を投げ込んだ。

3番はまさかの宝くじに変えてしまうが、これも当たり。


「ヒット!!」


ノーアウト満塁の状況で弱小ナインの4番が出てくる。

かっぷくのいい体格と、毛深い体で長打力が期待される。


「負けて……たまるかーー!!」


京東銀行は小細工せずにストレートに札束を投げ込んだ。

流れが来ている弱小ナイン。

4番はお金をすべて株への投資に踏み切った。ここで勝負を決める。



「3アウト、チェンジ!!」



4番が行った株投資は大失敗の大損により、1打者だけで3アウトになってしまった。

それどころか、得点もマイナスになってしまう。


「なにやってんだ4番!!」


「だって……この株買っておけば間違いないと思ったんだもん……」


デカいあたりを求めすぎてしまった。

あれだけ好調だった弱小ナインはいきなりのマイナス得点スタート。


攻防変わって、今度は京東銀行がバッターボックスに立つ。


「うおおお! 稲妻バーストシュート!!」


弱小ピッチャーは、持てる自分のお金を切り崩し、その金を頬った。


「そんなヘロヘロ金、止まって見えるぜ!!」


カキーン(課金)という快音が球場にこだました。

わずかな投資金額だったにもかかわらず、京東銀行は大きな利益を出した。


「ホームラン!!」


「ば、バカな……」


それからも京東銀行の打線は爆発し得点差は開くばかり。

日々大量のお金を扱っているだけあって、資産運用はお手の物。

まして、少額球ごときに空振りする京東銀行ではなかった。


「監督! どうしましょう! もう逆転は絶望的です!!」


マネージャーは悲痛な声を上げる。

試合も半分を過ぎたのに得点差は広がるばかりだった。

これ以上得点を取られればコールドになってしまう。


「あれを……やるしかないか……」


監督は意を決して審判に申し出た。


「自己破産を申告します!!」


「な、なにぃ!?」


自己破産が行われると、得点は0-0にリセットされた。

ふたたび試合はふりだしに戻る。


けれど、京東銀行はむしろ余裕たっぷりだった。


「ハハハ。むこうのチーム、自己破産しやがったぜ」


「あれだけ得点ひらいちゃ無理もねぇわな」


「バカだよな。自己破産したら、もう自分の金なくなるのに」


試合が再開されると、弱小ナインがバッターボックスに立つ。

これから大逆転劇がはじまるかに思えた。


「3振!! アウト!!」

「3振!! アウト!!」


もちろん、そんなことはなかった。野球なめんな。


「監督。自己破産して得点差がなくなったのはよかったですが、

 自己破産するとお金の運用先が限られるんですよ!

 これじゃ長打も期待できません!」


「それに、投手は投げる金額が支給されるものの少額だから

 メッタ打ちにされて終わりですよ!?」


「ぐぬぬ……」


得点差をリセットする自己破産はまさに諸刃の剣。

自己破産後は扱えるお金に制限がつきまくるので、

ここからの大逆転はカクヨムで書籍化するよりもずっと難しい。


「いや、作戦はある……」


「監督、いったいどこへ!?」


「君たちの力を信じる」


と、言い残して監督は球場から去っていった。

アイツ逃げたんじゃね、とはお尻が裂けても言えなかった。


「弱小ナイン、はやくバッターボックスに!!」


審判がイライラしだしたので、4番がバッターボックスに立つ。

これまでの打率は0が並ぶ。誰もが諦めていた。


それだけに4番が出塁したのにはみんなが驚いた。


「なんだ!? いったい何が起きている!?」


一番驚いているのは京東銀行で、続く5番も6番も。

その次も続々と出塁しては押し出しで得点を重ねていく。


ピッチャーを変えようが出塁は止まらない。

長打こそ出ないが1塁ずつ駒を進めて押し出しで得点する弱小ナイン


「ボーク!!」


ついに、最後の出塁で弱小ナインのコールド勝ちが決まった。


あぜんとする京東銀行ナインと、やかんのように激昂する監督。


「貴様らぁ!! いったい何をやっている!!

 自己破産後に全員ボークで押し出しコールド負けだぁ!?

 敵から金でも受け取ってんのか!!」


「監督、そんなわけありません!!」


「だったらどうしてあんな体たらくになったんだ!!」


「わかりません! 急に投球するお金がなくなったんですもん!!」


もめる京東銀行とは対称的に弱小ナインはおだやかだった。

監督も選手をねぎらいに戻ってきた。


「みんな、よく勝ってくれた。信じていたよ」


「監督……逃げたんじゃなかったんですね」


「ああ、そんなことするものか。

 君たちの力を信じていたから、あえて持ち場を離れたんだ。

 そして、これはほんの気持ちだ。受け取ってくれ」


監督から選手それぞれに大量のお金が贈られた。


「監督……!!」


「気にするな。今回の勝利はすべて君たちのものだ。

 遠慮することはない。胸を張って受け取ってくれ」


試合が終わり、弱小ナインと監督は球場を出た。


出口にはなぜかマスコミと警察がひしめいている。

監督はすぐに叫んだ。



「みなさん!! こいつらが、京東銀行に強盗に入って

 お金を根こそぎ盗っていった犯人です!!

 彼らの手にしている金がなによりの証拠です!!」

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