くすりと笑えてほのぼのできる!そんなツンデレがここにある!

コメディ色の強いツンデレにはいくつかの罠があります。
例えば『ツン』と『デレ』の緩急のつけ方です。
変化、あるいは落差と言ってもいい。

これらを上手くできていないツンデレは読者にとって、『攻撃的』あるいは『情緒不安定』な登場人物と映ることになるでしょう。

ですが、この作品は違う。

ヒロインである綾香ちゃんに幼馴染という属性をつけ、上手くかつ簡潔に彼女へツンとデレのバックボーンを備えさせています。

ちなみに私の持論の中に、ツンデレと幼馴染属性は相性がいいという(以下略。

簡単言うと、仲の良い幼馴染みだけど、だからこそ好意はバレたくない。
ここが簡潔かつ上手に彼女の『ツン』の起因となるわけです。


また、この作者様の上手い所はヒロインの『ツン』を笑いに変えているところです。

ツンデレには、相手役に対しての『ツン』が罵倒や嫌悪に繋がり、読者にとっていやなキャラに見えるという弱点がしばしば出てきます。

これらは、例えば『読者が見て納得できる、彼女に嫌われた原因を主人公に作る』をやってしまえばわりと解決できますが、今回の綾香ちゃんは『ツン』のほとんどが笑いに帰結しているのです。

これは単純ですがとても上手な『ツン』の見せ方ですよ皆さま!

罵倒らしい罵倒もなく、ヒロインがツンデレだとわかる行動をとりながら、読者に嫌悪感を与えることがない。むしろ笑いに変えることでヒロインの好感度を上げていく。

これはコメディにおけるツンデレのお手本といっていいでしょう!
コメディだからこそできる見事な落としどころです。


また、相手への信用のなさという『ツン』。
これも笑いどころに変えてらっしゃいます。

途中に出てくる綾香の妄想に登場する「啓介くん」。
綾香の、妄想での彼への信用のなさは良い味を出していますね。
相手に対して信用がないというのも立派なツンです。
本当に信用していないわけではないのでしょうけど、ここも絶妙なツンデレでした。


そして、綾香ちゃんにとっての『ツン』については触れましたが『デレ』についても良い部分がありました。
『相手役に自分のデレを隠す』というデレ方です。

いやぁ、灯台下暗し、目からうろことはこのことです。
読んでいて「なるほどそういえば」となりました。

パスワードやスマホの待ち受けという、人には見せない部分を相手役所縁のものにする。
自分だけが知っているという安心感、気張らずともよい素直な自分を出せる場所。
ここにツンデレのデレを持ってくる。良いです。


相手役である啓介くんの彼女の受け止め方も好感が持てます。
自信のパスワード0602。
一見彼女にゆかりのなさそうなパスワードが語呂合わせと理由を聴けば、彼女とのエピソードへつながる。良い。
綾香は料理大会に優勝した日を覚えているなど、彼女への愛情を感じられる部分もいくつもありました。


本編の内容、掛け合いもおもしろく、テンプレートなツンデレ台詞もほぼほぼなし。
コメディの中でヒロインに過剰な攻撃性や急激なツンとデレをさせることもなし。
笑いの中に上手くツンデレのグラデーションを落とし込んだ良作でした。