田舎監獄へ収監されたい人はこちら

ちびまるフォイ

住めば都といえるものか

「囚人番号13番! 貴様、なにをしている!!」


「あっはっは。なにって見ればわかるだろ。

 ここにいる囚人どものマッサージをしてやってるんだよ」


「そんなことすれば、囚人がますます元気になって管理しづらくなるだろ!」


「うるせぇ! 俺の仕事はマッサージ師だ。

 それは独房の中でも同じなんだよ!」


「おい! こいつを抑えろ! 囚人の動きを活発にさせるな!」


13番は羽交い絞めにされて引きはがされると、なおもあがきまくった。

その後、懲罰房にぶち込まれてもなお、セルフマッサージで体が柔らかくなるものだから

看守たちはいつ脱走するのかハラハラして眠れなくなった。


翌日、13番は懲罰房から看守長の部屋に呼び出された。


「貴様、この監獄に来てからというもの問題行動を繰り返してるみたいだな」


「監獄に入れられる人間が善人なわけないでしょう?」


「看守の言いつけも守らないそうだな」

「それが囚人ってもんです」



「貴様を田舎監獄へ移送する!!」


出荷される家畜のように荷台で輸送されると田舎監獄に到着した。

監獄とは名ばかりで、ぼろい家が1つあるだけのだだっ広いドドドド田舎だった。


「いいんですかい? 手錠も腰縄も亀甲縛りも解いてしまって?」


「問題ない。ここは田舎監獄だからな」


看守は再び去っていった。

独りになると13番は水を得た魚のようにはしゃいだ。


「よっしゃーー! こんなに早く外に出れるなんて思わなかった!

 なにが田舎監獄だ。こんな場所さっさと出て家に帰ってやる!」


13番は地平線に向かって走り出した。

走れども走れども、同じような田園風景が続くばかりで先が見えない。


すっかり日も暮れたというのに、風景が変わることはなかった。


「うそ……うそだろ……どんだけ広いんだよ……」


これ以上進んでしまえば、もう戻れなくなって野垂れ死んでしまう。

13番はふたたび残った体力を使いつくして最初の場所に戻った。


最低限の食糧は最初の場所にしか配給されない。

脱走するにも、遠すぎてとても無理だ。


「これが田舎監獄かよ……なんておそろしいんだ」


看守も日常作業もなくてラッキーかと思ったのは来る前だけだった。

世界に1人きりにされたような孤独感と代り映えしない時間がのしかかってくる。


そんな日常に耐えられなくなったある日、ふと思いついた。


「これだけ広い土地があるんなら、農業もできるんじゃないか?」


配給の食糧でお腹いっぱいになることはない。

でも自給自足ができれば、ここでの暮らしはもっと充実する。

備蓄できれば脱走もできるかもしれない。


見よう見まねで始めた農業だったが、コツをつかみ始めると、どんどん収穫できるようになった。


育てている作物はまるで自分の子供のようで日々の成長がうれしい。

すでに脱走できるだけの貯蔵もできたが、田舎監獄を出る気にはならなかった。


「ああ、なんか今人生で一番充実した時間を送っている気がする……」


一面に広がる農作物を見ながら、夕焼けを眺めて思った。



翌日、突然に輸送されて、いつぞやの看守長の部屋へと戻された。


「いったいどうして俺をまた呼びつけたんですか?

 田舎監獄で悪さなんてひとつもしてないですよ?」


「ああ、そのようだな」


「だったら、何の用ですか」


「君の更生が認められたんだよ。

 田舎監獄に移ってからの君は模範囚そのものだ。

 そこで、田舎監獄から解放するということになった」


「解放って……いやだ!! 俺は田舎監獄がいい!!

 あそこが俺の居場所なんだ!! 俺の帰りを待っている作物があるんだ!!」


必死に抵抗したものの、決定事項という名の麻酔銃でおとなしくさせられて輸送された。

目の前にはふたたび鉄格子と閉鎖的な風景になった。


「くそっ……ふざけやがって……必ず戻ってやる……!!」


更生を認められてもとの独房に戻されたが、そこからはさらに暴れまわるようになった。



「13番! 貴様そこでいったい何をしている!?」


「見た通りさ!! この監獄をぴっかぴかに磨きあげてるんだよ!!」


「くっ……なんてことを! そんなことをすれば汚しにくくなり

 ここでの囚人管理がしにくくなるだろう!!」


「うるせぇ! 俺はここを鏡のように磨いてやるんだ!!」


「やめないか!! おい、13番を抑えろ——!!」


何人もの看守がなんとか抑え込むことで騒ぎは収まった。

せっかく更生したと思いきやの悪行の連続で、懲罰房をすっ飛ばして、看守長からの呼び出しが入った。


「13番、貴様……いったいどういうつもりだ。更生したと思っていたが」


「更生? 笑わせる。俺は昔から生粋の悪人なんだよ。

 お前らがどう思おうが、この独房では絶対に更生しない!!」


「さて……どうしたものか……」


「この独房では、ぜったいに、更生しない!!」


「本当に困った。こんな問題囚人なんてはじめてだ。どう更生させればいいものか」


「農業とか作物とか誰もいない場所に送られれば、更生するかもしれないな!!」


「なんとかして13番を反省させて社会復帰させる方法は……」


「いやだーー! 絶対に田舎監獄なんかいやだーー。

 田舎監獄に送られたら、辛すぎて俺の悪人根性も治っちゃうよーー」


「どうするか……」

「にぶいよ!!」


いつまでも決められない看守長へのアピール合戦が続くかに思えたが、

ついに看守長は決断を下した。


「よし、こいつはこの監獄には置かない。輸送しろ」


「やっ……じゃなくて、ちくしょーーはなせーー」


後ろ手に手錠を付けられアイマスクを付けられると、荷台に乗せられて輸送された。

表面ではいやよいやよと言っておきながらも、気持ちは高ぶっていた。


またあののんびりスローライフに戻れるのかと思うと顔がほころぶ。


「ついたぞ」


看守の声を合図にアイマスクを外した。


「戻ってきたぞ! 愛しの我がマイホーム!! ……ってあれ?」


目の前に広がっていたのは田園風景でなく、乗車率400%の過密な電車内だった。





「貴様は、都会監獄へと輸送された。

 ここではキツキツの場所で生活しながら、毎分必ずSNSをチェックして

 最高速度の歩行速度をキープして、短い睡眠時間でせかせか生活するように!!」



一言目に出たのは「死にたい」だった。

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