第5話 渋谷へ

『ねぇ、掛川』


 突如として、俺のLINEに連絡が入った。今は午前10時。二時間目の途中である。

 送り主は同じクラスの三河。授業中なので、あまり大胆にスマホを触れないので、机の下に持って行って返信をする。


『なんだ?』


 出来るだけ短い文字数で返信をする。するとそれは数秒で既読の表記が出てきた。


『今日の放課後暇?』

『何かあるのか?』

『どこか遊びに行こうよ』


 遊びの誘いを受けた俺はその場で呆れた顔をしてしまう。


『お前、退院したばっかだろ?』

『そんな激しいことしないって………もしかして……掛川、そんなこと期待してた?』

『そういえば今日俺勉強の予定が』

『ごめんって』


 傍から見たら仲の良い友人とのLINEだ。ただ、三河にとってはこういうのが特別なのかもしれないと、ふと思う。


『いいけど、どこに行くんだ?』

『渋谷』

『少しめんどくさいな』


 新橋から渋谷は少し距離があり、山手線でも数十分はかかるほど。


『嫌だ?』

『別にいい』

『良かった。じゃあ新橋駅改札に3時半に集合』

『家に帰るなってことか』

『当たり前』


 俺はそこまでLINEをしてポケットにしまう。それと同時に三河ももうスマホを手に持ってはいなかった。しかし、その瞬間、俺のスマホがもう一度震えた。


「ん?」


 着信画面を見ると、そこには「豊橋」と表記されていた。めんどくさいと思いながらもトーク画面を開く。


『今日暇ー?』

『暇じゃねぇ、帰れ』

『分かった、バイバイ』

『あっさりしすぎだろう…』


 スマホを見て呆れていると、俺は唐突に現実に引き戻された。


「掛川。ここはなんだ?」

「え?あ、えと…わかりません」

「そうだな、お前が開いてる教科書は数学だもんな。そりゃ分からん。歴史が嫌いなのは否定しないが、だからって別の教科の勉強されると先生泣いちゃうぞ」


 教室内に笑いの渦が発生した。俺は顔を少し赤くして席に座る。歴史の先生はどうも苦手だ。こう言った授業の方が頭に入らない。

 俺はうんざりしながら教室内を見渡す。するとクスクスと笑う米原さんがいた。自然と悪い気はしなかった。







 ーーーーーーー新橋駅。

 予定よりも十五分早く来てしまった。俺はスマホを触って暇つぶしをする。すると案外早くに三河は来た。


「あら、随分と早いわね」

「ああ、学校ですることなんてないしな」


 ICカードを改札に通しながら俺達は会話を広げる。以前の告白から気まずさなどはなく。友人らしい会話。


「そう言えば、米原さんとはどうなのよ?」

「はぁ?」

「いや、アタックとかはしたの?」

「いいや、全然してないな。そもそも、米原さんが一人でいることなんか滅多にない」


 電車が来ると、三河は一歩俺よりも前に出た。金髪の髪から甘い香りが漂う。俺はその匂いに少しドキッとしてしまう。


「何?気持ち悪いわよ」

「な、何でもねぇよ」


 今割と真面目に引かれた気がして少々ショックを受けた。山手線内はまだ混んではいない。大崎方面の電車に乗り、数駅。案外すぐに渋谷についた。


「うわっ、混んでるなぁ…」

「はいはい、文句言わないで行くわよ」


 背中を押されて俺はそのまま人混みへと入り、前に進む。目の前の大きなデパートに入り、あたりを見渡す。


「わぁ、広いわね…」

「化粧品くせぇ…」


 正直、この匂いあまり好きではない。小さい時からお母さんの買い物に付き合っていたが、これだけは苦手だった。


「私が見たいのは服よ、3階だから早く行って」

「結局俺は振り回されるのな……」


 三階に着くと、服がずらりと並んでいた。ムワッとした空気があたりを支配し、俺は汗が滲んでいた。

 すると三河は一歩前に出て、俺に指を指した。


「見てなさい。あなたが惚れるような可愛い服を探してくるから!」

「……はぁ、頑張れ」


 それだけ言って、三河は服の渦にズカズカと入っていってしまい、数秒で姿は消えてしまった。

 カフェで時間潰すか…


 2階に降りて近くのカフェでココアを頼む。俺はコーヒーが苦手なので、甘いカフェオレかココアしか飲めない。


「………」


 こんな時間に一人でカフェに入るのは俺くらいでさっきから女子高生軍団やカップルに冷たい視線が送られてきてい目とてもじゃないが、こんな所数分いただけで息が止まりそうだった。

 トレイを持って外の席に座る。そして、スマろを開く。

 着信画面には一人のメッセージが受信されていた。

 米原 聖那。

 瞬間、ドキッとした。俺は恐る恐る画面を開き、メッセージを見た。


『突然すいません。来月の夏祭り何ですけど……誰かと行く約束とかありますか?』

『いや、無いけど……?』


 すると案外早く返信は返ってきた。スマホを一々出すのが面倒なので、机の上に置いておく。


『富士さんが掛川さんの親友の羽島さんと一緒に行くらしくて……』


 富士 まゆみ。羽島誠人の恋人であり、いわゆるギャルだった。俺も富士との仲は悪くない。


『私もそれについて行くんですけど……掛川さんもどうですか?』


 この時、俺は席に立ち上がって大声を上げたくなったが、抑制して文字を打っていく。


『わかった。よろしく頼むよ』

『はい、よろしくお願いします』


 トークはそれで終了し、俺はココアを飲み干した。そして椅子から立ち上がり容器を捨てる。


「さて、ゲームでも見るか」


 俺は同じ階のゲームコーナーに歩を進めた。

 上の階で少しざわついているが、まぁ大丈夫だろう。







 ーーーーー二時間後。

 遅い。女子は服選びに時間がかかると言っていたが、流石にかかりすぎだろう。イライラと同時に不安な気持ちもあった。

 俺は三階に昇り、三河を探す。すると、服のコーナーに金髪の女性らしきシルエットが見えた。


「ったく…まだここにいたのかよ……おい三河!」


 ………返事がない。聞こえていないのだろうか?それともイタズラか?


「三河!無視すんなよ!」


 三河の元まで走り、俺は三河の右手を掴んだ。


「おい三河、遅すぎ…………る……」

「へっ?」


 一瞬、世界が止まったような気がした。三河も顔がそっくりでスタイルも同じ、挙句の果てには長髪まで同じだ。服装まで流石に同じではないが、後ろ姿ではほぼ同じ色だった。

 しかし、三河とは違うものが一つあった。少し弱気そうな顔。高めの声。

 しかしおかしい。さっきまで黒髪だった彼女が何故金髪になっている?


「……えと……米原……さん…?」

「っ〜〜〜っ!!」


 俺は頭の回転が追いつかず、手を握ったまま静止してしまう。

 今にも爆発しそうなほど顔を赤くする目の前の少女は、三河陽菜ではなく、米原聖那だった。

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そっくりヒロイン 二川 迅 @Momiji2335

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