そっくりヒロイン
二川 迅
第1話 都会の高校
普通の高校生活を送っていた。そうやって、「普通の生活」を普通に送る。人々はこれを「退屈」といい、時には「幸せ」と呼ぶ者もいる。もちろん俺は前者である。いや、前者だった。
本当に退屈なその日々に転機はいつくるのかと、餌に飢えた動物の気分になっていたよ。本当に転機がくるなんて知らずにね。
憧れていた都会の高校の入学を果たした俺は朝から憂鬱なテンションで今日という日に挨拶をする。
「っ……あぁ…」
いつもみたいにだらしない背伸びをして、すぐ隣の皺の多いワイシャツを身に包む。ここからの通勤通学ラッシュの渦に入り込むと考えると、俺の足は重くなるばかりだった。
誰ひとりとしていないこの部屋は親に前借りした金で借りたものだ。いつか親にも借金を返さなければいけない。
今日の占いを見て、玄関を出る。ちなみに俺は天秤座、今日は6位というちょうど中間のなんとも言えない日。ネクタイを結び、スクールバッグを肩に回し、玄関を出たのが7時半。
「あっつぅ……」
右手で太陽を隠しながら、都会を見下ろす。道路にはバスや人が蔓延っているのが見えた。
「行くか……」
覚悟を決めた俺は近くの新宿駅に向けて歩を進めた。
新宿駅構内は本当に人で全てを埋め尽くしていた。改札機を通るのにも数十分かかるなど、アリの巣状態である。ある人には舌打ちをされ、何もしていないのに謝られたりと、朝から散々だ。ようやくホームに出た俺は、ある人物と出会う。
「よっ、羽島」
俺は右手をあげて、友人の
「おう、
俺達は別に下の名で呼ぶほど親睦を深めたわけでもない。友人以上の関係は俺も羽島も望んでいないのだろう。
「ところで、だ。お前今日29日だよな?」
「それが?」
「今日数学あるぞ、羽島」
「……なんのためのお前だ?掛川」
「ぜってー見せねーぞ」
そんな会話の中、ホームの自動放送と共に電車が入線してきた。押されるようにドアを越えて車両に入った俺達はギュウギュウに詰められていた。
「…梁くん?」
「あ?」
唐突に俺は名を呼ばれた。通勤通学ラッシュのイライラもあってか、ぶっきらぼうな返事で声の主をにらみ返してしまう。
「やっぱり、
「…豊橋か」
黒髪セミロングの清楚系の男。
「なんだ?お前、どこの学校なんだ?」
「……?梁くんと一緒だよ?笠永高校」
「お前を見たことがないんだが……」
「だって今日転校してきたもん。それに君とは一学年下だよ?」
「そうなのか」
ぶっちゃけてしまうと、そんな話はどうだっていい、隣のおっさんの加齢臭がひどいのと、羽島が鼻息を荒くして隣の女性専用車両を見ていたから。気分は最低ラインにある。
そしてようやく着いた新橋駅。こんな都会に高校があるかなど、誰も気づかないだろう。そう思うほどここの高校は見つけずらいのだ。
「ね、梁くん。場所教えてよ」
「んなもんマップで調べろ。世の中のテクノロジーを踏みにじるつもりか?」
「可愛いな……君、このあと暇?」
「羽島。こいつ男だ。別にお前が男に欲情するなら止めないが、俺はよした方がいいと思うぜ、後まだ朝だぞ」
羽島は垂れているヨダレに気づき、袖でそれを拭く。その際の「じゅるっ」という音は非常に不快なものだ。
新橋駅から徒歩3分の所、ビルの間に無理して作った感がある私立笠永高校。進学校でもなければ堕落校でも無い。
そんな高校だが、俺達男にはいい点が一つ。女子のスカートが短いので、入学当初はパンツ身放題で興奮する。しかし、一年経つとパンツ見えるのなんて当たり前で今では全然反応すらしなくなった。
「へぇ……ここがねぇ」
「さ、早く入ろうぜ、冷房の効いた部屋に行きたい」
俺と羽島は同じクラスメートだが、豊橋はどうなのか、分からない。とりあえず「職員室に行く」と言っていたので、同行する必要は無いだろう。
クラスのスライド式のドアを開けると、もうそこには数十人の生徒がいた。
「うぃーす」
眠そうな挨拶をして、席に向かう。真ん中の一番後ろ。眠そうな俺は机に肘を乗せ、眠そうな雰囲気を醸し出す。目を閉じ、数秒たってから開けると、目の前に黒い太ももがあった。これはタイツだろう。
「……なんだ、三河」
「いや、何でも……無いわよ…」
「朝から元気ねぇな。もっとシャキッと…」
「あんたが言うな」
お互いが同時に欠伸をする。彼女の名は
「お、おはようっ……」
「おう、おはよう。米原さん」
彼女の名は
この金髪ロングの三河と黒髪ロングの米原さん。一卵性の双子かと言わんばかりのソックリさんなのだ。本当にこのふたりは血縁もないのだが、何故か顔が似ている。性格は正反対なので、男子には三河派と米原派の二つの派閥が存在しているらしい。
まぁ、どっちも胸も大きいし太ももを良き。ポイントはお互いに百点満点だな。俺は席から二人を見て、今日という退屈な日々を過ごしていく。
あんな転機が訪れようとしているなんて知らずに。
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