神の最高傑作

全身傷だらけとなったバハムートは、完全に劣勢だった。


自らの力。『世界鯨』を解放し、一時はラーを宇宙の海に沈め追い詰めたが、ラーはなんと自らの子であるホルスと融合、光の化身『ホルアクティ』へと変身し反撃を始めたのだ。


『ホルアクティ』は、ラーの太陽神としての“光"を象徴する姿。


宇宙の闇を司るバハムートにとって、宇宙の中心にあって宇宙に光をもたらす太陽、その光は天敵と言っても過言ではない最悪の相性であった。


たちまちに宇宙は光で満ち、闇であるバハムートの体を指し貫き、高熱で焼き付けはじめたのだ。


その反則じみた力の前に、バハムートの生み出した闇はそのほとんどを打ち消され、辺りは光に満たされた。


(クソッ、こんなはずじゃなかったのに‼︎)


バハムートにも意思はある。


それこそ、人類を遥かに超えた、神にも等しい知能を有する超生物だから当然だ。


これまでも、ただの獣のように闇雲に突っ込んでいっているように見えて実は、その場その場の最適解を瞬時に導き出し、実行していたのだ。


でなければあの最高神ラーをここまで追い詰めることはできなかったであろう。


だがこれはどうしようもない。


バハムートの力の象徴であり、根源である闇では、光そのものであるラーを倒すことはできない。


宇宙において、あらゆる天体、重力、引力、法則であの永遠に燃え続ける太陽を消せないのと同じだ。


視界の全てが眩い光に包まれて目は眩み、身体中を高熱で焼き付けられあちこちが燃えているのがわかる。


このままこの光の中にいれば、全身を焼き尽くされ、闇であるバハムートは跡形もなく焼失することだろう。



(……仕方ないか)


バハムートはある決断を迫られる。


このまま何もせずに敗北を認め消炭になるか、



この神によって創り出された体。



その巨体は世界中の海を飲み干し、大地を踏み固め、世界にバランスをもたらす、神の最高傑作と言われる肉体を捨てるかだ。


「迷うまでもない」



バハムートは全身の力を抜き、あらゆる抵抗をやめた。


それまでなんとか鬩ぎ合う形でジリジリと言った様子でしか進行していなかった光の浸食は一気に進み、バハムートの巨体をあっという間に光で包む。


わずかに残る視界の端には、光の剣を構え、猛スピードで突撃してくるラーの姿。



それは、あと数瞬後にはバハムートの体に届き、まるで豆腐でも切るかのようにバッサリとバハムートの巨体は両断されることだろう。


仮にこの光をなんとか出来ても待っているのは光の剣の斬撃。

どの道この状況から逆転する目などありはしなかったというわけだ。


(やはり、俺などでは創造主である神には届かなかったのだ)


内心諦めの境地に至ったバハムートは、自らの体が両断されるまでの数瞬のうちに、あることを思い出していた。



(そう、たしかあの時もこんな風に……)

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vs神 ベームズ @kanntory

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