エピローグ「魔法の杖」

    ⅩⅡ


 五月半ば=初夏の陽射し――本部ビル三階のカフェテラス。

 今日も今日とて優雅な午後のお茶会カフェブレイクに勤しむ少女たち。

「な~んで一番大怪我した人が、真っ先に退院してんすかね」「どー考えても理不尽な訳だし……」不貞腐れるようにテーブルに突っ伏す比叡+フードの下からジト目を覗かせる春奈。

 事件から数週間――大人は事後処理とか面倒な後始末に追われている。機体の半数を失った戦術班のおっちゃんらは、暇を持て余して怪我が治るなり行きつけの酒場で呑んだくれてるらしい。

 要撃小隊も検査入院――怪我の療養と義肢の再調整で数週間の退屈な時間をベッドで過ごした。もはや日常と化したお約束。

 最も重症だったはずの天姫――なぜか真っ先に退院/現場復帰。

 後から退院した比叡+春奈――納得がいかず。「きっとゴクーみたいなサイヤ人なんすよ」「魔法少女かもだし……」

「お二人とも、お待たせしましたわ」そこに遅れて噂の本人が現れる――比叡+春奈=慌てて姿勢を正す。「なんでもないっす、小隊長」「ウェヒヒ……元気そうで何よりだし」

 さらに乙を先頭に、珍しく御影+日向の大人組も登場。「みな揃っているな」「御機嫌よう、お嬢さん方」「……暇そうだな」

「どーしたんすか、みんなして?」「クエストの予定はなかったはずだし……」首を傾げる二人――胸を張って天姫が答える。「今日はお二人に、一緒に働くをご紹介しますわ」

 いぶかしる二人が口を挟む余地なく、天姫が手を叩いて相手を呼ぶ。

「さ――あ、こっちにいらして自己紹介なさい」

 扉の奥から現れる小柄な姿――パリッと整えられた黒髪+子供用の燕尾服+黒い半ズボン――小さな執事といった装いの少年。

霧島キリシマ・ジャン・カディルです。今日からMSSの皆さんのお世話になります。よろしくお願いします」

 国語のテキストみたいなカチコチのドイツ語――比叡+春奈=仰天/説明を求めるように、天姫へ見開いた目を向ける。

「彼を、正式に雇うことにしましたの。これからは、本部の寮で一緒に生活していきますのよ」

 全く持って意味が分からない――目が点になる二人に、どこか面白がるように御影が説明。「彼は難民弁護団からの保護を受け、正式に帰化が認められた。こうして福祉局から漢字名キャラクターも与えられ、晴れてこの都市の一員となったのさ」

「仲良くするんだぞ」笑みを浮べる乙――肩をすくめる日向。

 それで理解――きっと、天姫が裏で何かをやった。実家の力を使って政治家や有力者への裏回しとか……よく分からないけど、強引に短期間で難民申請を認めさせたのだ。魔法みたいな手で。

 かしこまるジャン少年改め、霧島――その肩に手を乗せ堂々と天姫が宣言。「ワタクシがこの子を、立派な紳士として育てることにしましたの。そのためのとして、ここでしばらく働いて頂くことに決まりましたわ。……そうですわね、?」

 緊張気味な霧島。「はっ、はい! 天姫ねえ……じゃなくて、の言う通りです。ここで皆さんと一緒に、勉強させてもらいます」

「いいお返事ですわ」満足げに微笑む――優雅に着席。「それでは霧島さん、お仕事ですわ。皆さんにお茶をお淹れして下さい」

「……え? でも、オレ……いやボク、コーヒーの淹れ方なんて教わってない――」

「まずは習うより慣れですわ」天姫――その右手に、いつの間にか魔法のように乗馬鞭ステッキが出現=ビシッと小気味良い風切り音。「さ――あ、霧島さん。さっさと体を動かしなさい。そんなことでは、立派な紳士になれませんわよ?」

 ううっ……と声にならぬ呟きを残して、霧島が食堂の方へすっ飛んでゆく――その光景を見ながら、ほくほくと微笑む天姫。

 比叡=頭の後ろで腕を組んで呆れ返る。「あーもー。ホントに無茶苦茶っすね、うちの小隊長は」

 春奈=達観したように携帯端末でゲームアプリを起動しながら。「まあ、どーせいつものことだし……」

 そんな三人の少女たちを、苦笑しながら見守る三人の大人たち。初夏の明るい陽射しが、それらの一幕を暖かく照らし出す。

 光と闇が交錯する街――壱百万都市ミリオポリス

 これは明日を信じて生きる者たちの記録――妖精たちの物語スプライトシュピーゲル

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スプライトシュピーゲルif-Argonautes record- 神城蒼馬 @sohma_k

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